神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
6月号
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電子タバコはたばこではない?

 2014年1月の名論卓説で、「新しい年に新しい議論を~POCTから電子タバコまで~」というエッセーを書いた。 当時の日本には、電子タバコを議論の俎上に載せるという意識が全くなかった。しかし、これはそのうち日本でも問題になるな、という予感がした。先月号で大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長の田淵貴大先生が書かれた「新型タバコの本当のリスク」という本を紹介したが、2020年の東京オリンピックへ向けてたばこ問題がクローズアップされ、新型タバコと同時に電子タバコ(欧米ではE-cigarettes )にも注目が集まるようになった。

電子タバコはたばこではない

 田淵先生の本によると、

 電子タバコでは、吸引器に専用の溶液(リキッド)を入れ、コイルを巻いた加熱器で熱し、発生したエアロゾルを吸い込む。
この基本構造は共通で、電圧が調整可能であったり、リキッド容量の大小があったりなど、さまざまな電子タバコ製品が開発されているきている。
溶液には、ニコチンや果物などのさまざまな香りの人工香料、グリセロール、プロピレングリコールといった液体を用いる。
しかし、日本では、ニコチン入りの電子タバコ用リキッドは医薬品医療機器等法(薬機法、旧薬事法)により禁止されている。
日本では電子タバコが市場に登場した際、ニコチンはタバコではない、ニコチンを薬物として扱う、ニコチンは毒物であるから規制しなければならないという論理のもと、ニコチン入り電子タバコを規制しているのである。
そのため、日本で売られている電子タバコ用のリキッドには、原則ニコチンは含まれていない。
とのこと。ここが諸外国と違うところだ。

 一方、イギリスなどでは、この電子タバコを禁煙治療のデバイスとして積極的に使用しようという機運がある。最近イギリスで行われた研究の成果がThe New England journal of medicine. 2019 02 14;380(7);629-637.に発表された。「電子タバコとニコチン代替療法の無作為化試験(A Randomized Trial of E-Cigarettes versus Nicotine-Replacement Therapy)」である。私の訳したものをお示しする。

 『電子タバコvs ニコチン代替療法に関するランダム化比較試験』

<背景>電子タバコは、禁煙グッズとして普通に使われているものだが、禁煙治療に許可されているニコチン製品と比べて効果があるかどうかのエビデンスは限られている。

<方法>英国国民健康保険禁煙施策に参加している成人に対して無作為に、いくつかの製品を含むニコチン代替療法を3ヶ月選ぶか、フレーバーも強さも購買時に推薦された電子タバコスターターパック(第2世代の、1ml中に18mgのニコチン溶液の入った瓶を使って詰め替え可能なもの)を使用することを選ぶかは参加者に任せた。治療中少なくとも4週間は、週に一度認知行動療法が行われた。結果の一次評価は、1年間禁煙が持続されているかどうかで、最終チェックは生化学的検査で行った。経過を追えなかった参加者、生化学検査が行えなかった参加者は、禁煙が出来なかったものとした。二次評価として、参加者による治療の有用性に関する報告と呼吸器系症状の評価を行った。

<結果>計886名の参加者が無作為に抽出された。1年間禁煙持続することが出来た割合は、電子タバコでは18%、ニコチン代替療法では9.9%だった(P‹0.001)。1年間禁煙が持続できた参加者のうち、電子タバコを選んだ参加者の方が、ニコチン代替療法を選んだ参加者よりも、割り当てられた製品を52週時点でも継続していたようだ(80% [63 of 79 participants] vs. 9% [4 of 44 participants])。のどや口の中の炎症は電子タバコで多く(65.3%, vs. 51.2%)、吐き気はニコチン代替療法群で多かった(37.9%, vs. 31.3%)。せき、痰の発現は、試験開始から52 週までを見ると、ニコチン代替療法に比較して強く減少していた。喘鳴、息切れの症状については両者に有意な差はなかった。

<結論>禁煙するためにはどのように行動したらよいかの支援がある場合には、電子タバコはニコチン代替療法よりも禁煙に有効だった。

 電子タバコ(E-cigarettes)新型タバコ(IQOS 等)
タバコの葉使わない使う
Flavor多くの種類がある少数
加熱する(250~550℃)する(240~350℃)
ニコチン摂取方法ニコチン溶液(外国)タバコの葉に含まれるもの
ニコチンなしの製品日本ではこれのみなし
日本での認可含ニコチンは無認可認可
欧米での認可認可国と無認可国あり米国では無認可
禁煙治療に用いられる用いられない
  (Dr. KOZU作成)
タバコの葉
電子タバコ(E-cigarettes)使わない
新型タバコ(IQOS 等)使う
Flavor
電子タバコ(E-cigarettes)多くの種類がある
新型タバコ(IQOS 等)少数
加熱
電子タバコ(E-cigarettes)する(250~550℃)
新型タバコ(IQOS 等)する(240~350℃)
ニコチン摂取方法
電子タバコ(E-cigarettes)ニコチン溶液(外国)
新型タバコ(IQOS 等)タバコの葉に含まれるもの
ニコチンなしの製品
電子タバコ(E-cigarettes)日本ではこれのみ
新型タバコ(IQOS 等)なし
日本での認可
電子タバコ(E-cigarettes)含ニコチンは無認可
新型タバコ(IQOS 等)認可
欧米での認可
電子タバコ(E-cigarettes)認可国と無認可国あり
新型タバコ(IQOS 等)米国では無認可
禁煙治療に
電子タバコ(E-cigarettes)用いられる
新型タバコ(IQOS 等)用いられない
(Dr. KOZU作成)

 日本でも、治療手段として電子タバコが選ばれる時代になるかもしれない。そうなる前に、きちんとした情報を集めて整理し、患者に危害が及ばないように、しっかりとしたアドバイスが出来るようにしなければならないだろう。

日本のがん死亡率の減少はがん対策の成果ではない

 Medical Tribune Webに載った、大阪国際がんセンターがん対策センター大島明特別研究員の報告「がん死亡率が米国に逆転される理由 (日本のがん対策の問題点) 」 によれば、「米国ではがん死亡率が25年で27%低下」しているとのこと。

 米国のがん死亡率(男女合計、2000年米国人口を標準とした年齢調整死亡率)はピーク時の1991年から2016年までの25年間で27%低下し、部位別には肺がん、大腸がん、乳がんなど多くの部位で死亡率が減少していたことが示されている(CA Cancer J Clin 2019; 69: 7-34)。これらは、タバコ・コントロールによる喫煙率の低下とがん検診の普及、そして治療の進歩によるものと考える。

 日本でも、「がん死亡率はピーク時の1996年から2017年までの21年間に28%減少している」。しかし、日本のがん死亡率の減少はがん対策の成果ではない、という。

 米国と異なり、日本のがん死亡率は、特異的ながん対策の結果として減少したとは言えない。1984年に対がん10カ年総合戦略が開始され、2007年に施行されたがん対策基本法の下、がん対策推進基本計画(第1期、第2期、第3期)が進められてきたが、これらに基づく対策の成果として日本のがん死亡率が減少したとは言えないと考える。

 特に、肺がん死亡率については、「近く日米が逆転するのは必至、原因はたばこ対策の遅れ」と断言する。

 実際、大島先生がWHO Cancer Mortality Databaseに基づき作成した日本と米国における肺がんの年齢調整死亡率の推移(以下の図)をみると、「男性の肺がん死亡率の減少速度は米国のそれよりもはるかに鈍く、近く日米の肺がん死亡率が逆転するのは必至である」とする説明には説得力がある。

 そして、「これは、日米のタバコ・コントロールの取り組みの差によると考える」と説明している。

 WHOのレポートによると、2016年における男性の年齢調整喫煙率(標準人口:WHO世界人口)は、米国の24.6%に対して日本は33.7%とほぼ10%ポイント高いままとどまっている。日本は、たばこ規制枠組み条約に盛り込まれたたばこ税・価格の大幅引き上げ、たばこ広告の規制、たばこパッケージの画像入り警告表示、クイットライン(無料の禁煙電話相談)などの取り組みが遅れている。国際条約の批准国として条約を履行しなければならないのは当然であるが、図に見られるような事態を招いたことを直視して、国民の健康の維持増進のため、早急にたばこ規制の取り組みを強化するべきである。

 たばこを巡る論議は長くディベイトの対象になっていたが、もう十分論議を尽くした感がある。しかし、その結末についてはまだまだ情報が行き渡っているとは思えない。国会議員の思い付きで始まったプロパガンダである「人生100歳時代」がテレビやマスコミの紙面を踊るのなら、「たばこは百害あって一利なし」と語った、故黒川利雄東北大学名誉教授の言葉が、毎日テレビやラジオ、新聞や雑誌で流されるのがまともな国の在り方だと思うが、どうだろうか?

<資料>

1) 「新型タバコの本当のリスク」
田淵貴大著, :内外出版社, 2019年.
2) 田淵貴大
社会はいかにタバコ産業に歪められているか ~タバコ産業は人類の敵である。タバコ対策には明らかな敵が存在していることを認識して取り組まなければならない~:世論時報, 第49巻第6号(通刊781号), p14-19, 2016.
3) 電子タバコとニコチン代替療法の無作為化試験
https://pmc.carenet.com/?pmid=30699054&keiro=journal
4) 神津仁の名論卓説2014年1月号
https://www.e-doctor.ne.jp/c/kozu/1401/
5) Medical Tribune(2019年04月01日)大島明「がん死亡率が米国に逆転される理由」
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2019/0401519668/
6) 肺がんの年齢調整死亡率の推移(男性):日本と米国
https://medical-tribune.co.jp/rensai/23166_fig1.png

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