100歳、あるいはそれ以上を生きる人のことをセンテナリアン( Centenarian )という。Century(一世紀)を生きる人々として、尊敬と敬愛を込めてこう呼ぶようだ。これらの人々は、ベッドに寝た切りという高齢者ではなく、家族のために畑を耕し、野菜を収穫し、魚を捕り、自分で食事を作り、友人と会話を楽しむ、そういう人々のことだ。100歳とはいえ、傍目にはずっと若く見える。
(100歳の漁師、沖縄 ※資料3より)
日本のデータから見た100歳
「100歳以上、最多6.7万人=9割女性、島根が長寿1位」という記事が、2017年9月の島根日日新聞に載っている。「100歳以上の高齢者が15日時点で6万7824人に上り、47年連続で最多を更新したことが分かった」という。2017年の日本の人口は1憶2千680万人だから、人口で割ると0.05%、人口10万人比をとると、平均約50人ということになる。島根県はこの時に97.54人と最も多く、連続して長寿日本一となった。
日本の100歳以上の人口は1990年代に急速に伸び、2000年を越えるとさらに急峻な伸びを示している。1963年以降の年次推移は以下の通りであり、厚生労働省が住民基本台帳を基に集計し公表したデータによれば、女性が88%を占めていた。
「都道府県別統計とランキングで見る県民性」というホームページでは、「他ランキングとの相関を見ると、看護師数や作業療法士数、介護福祉士数、一般病床数と正の相関があり、医療・介護環境が充実しているところに100歳以上高齢者が多いと言えよう。また、最低賃金や通勤時間と負の相関があり、最低賃金が高く、通勤時間が長い都市部で100歳以上高齢者が少ない。地方の若者が都会に流れ、都市部の高齢者密度が下がっていることが考えられる」と説明書きがあった。過疎化が進み、高齢者が取り残される中でのランキング入りは、はたして喜ぶべきことかどうか微妙なところだ。
The Blue Zones
2010年にディスカヴァー・トゥエンティワン社から発行された「ブルーゾーン~世界の100歳人に学ぶ健康と長寿のルール~(訳:仙名 紀)」には、世界のセンテナリアンがどのように生きているのかを詳細に調査したレポートが記されている。著者のダン・ビュイトナー(Dan Buettner)は、National Geographic誌の記者として活躍しているミネソタ生まれのアメリカ人だ。New York Timesで最も売れた記事を書いた著者であり、探検家であり、教育家でもある。
TEDで公開されている彼のプレゼンテーションは、視聴回数30万回を超える。聞いているとかん高い彼の声がやや癇に障るが、誰にも欠点はある。100点満点というわけにはいかないのが人間だ。
なぜ百歳以上の人たちが多い地域をブルーゾーン(The Blue Zones)と呼んだのか、そのいわれはこうだ。ベルギーの人口動態学者であるミッシェル・ブーラン博士が、イタリア半島から西に200kmほど離れた、四国の1.3倍ほどある大きなサルディニア島(人口は165万人で、四国の約4割ほど)で、40もの市町村を訪問し、多くの百歳人にインタビューしてデータを作り、「超長寿インデックス(EL I=Extreme longevity index)」と呼ぶ指標を作った。サルディニアではこの数値が非常に高かった。彼は長寿者が最も多い地域を中心に、地図上に青いインクで円を描いた。それが「ブルーゾーン」という名称のいわれで、後に人口動態学者たちは皆この名称を使うようになったという。
最初のブルーゾーン、サルディニア
「ある村では、人口2500人のうち、7人の百歳人がいた。これは驚くほど高い比率だ。アメリカでは平均すると5000人余りに1人だ」とDanは書いている。この本では、サルディニアの100歳人に多くのページを割いている。
彼らは大抵、自分のベッドかお気に入りの椅子に座って1日を過ごす。家族と一緒に食事をし、友人に会うために外出することもある。
たいていの百歳人は、人生の大半を農民や羊飼いとしてよく働いてきた。彼らの生活パターンは、日ごと、季節ごとに決まっている。彼らが面倒を見てきた家族が、今度は手助けしてくれる。彼らの生活は、1人の例外を除いて、極めて平凡だ。
102歳の耳の遠いジュゼッペ・ムーラに会った。ジュゼッペはまず農民として、その後は羊飼いとして、1日に十六時間も野外で働いてきた。大抵昼食時に一旦自宅に戻って食事をしてから昼寝をし、午後も遅くなってから1、2時間位友人達と村の広場で雑談する。それからまた、暗くなるまで仕事に戻る。8人の子持ちだが、育児を含めて、家の事は奥さん任せだ。ジュゼッペの主食は、そら豆、ペコリーノ・チーズ(原料は羊乳)、パン。余裕があれば肉が加わるが、若い頃は極めて稀だった。娘のマリアによるとジュゼッペは毎日、サルディーニャ産のワインを1リットルほど飲んでいたという。祭りになると彼は幹事役を引き受けて、もっと飲む。
私たちが会った百歳人は、概ねきちんと会話も受け答えもできる。だが、たいていは家にこもりきりで、娘や孫娘の世話になっている。本人から聞いた話は記憶が曖昧なので、内容はそれほど信頼できない。
私がこのブルーゾーンで見聞した範囲内では、トニーの人生観や価値観は、平均的なものに思えた。人々は、おしなべて家族第一主義だ。歴史的に、周囲を敵に囲まれ、孤立した環境にあったことも、無縁ではないかもしれない。お互いに頼り合うしか、身を守る術がなかったのだ。私があった百歳人の誰もが、「家族(ラ・ファミリア)」が最も重要だ。これこそが人生の目的だ、と述べた。
アメリカでは、老人が子供や孫と別れて暮らしている場合が多い。自活できなくなれば、老人ホームのような施設に入るのが一般的だ。だがここでは、そのような事はまず起こらない。家族の義務だという認識があるし、地域社会の圧力も加わる。長老に対する尊敬の念もあるし、何よりも一家に百歳人がいる事は名誉でもあるから、死ぬまで家族で面倒を見る。したがって、80歳を超えた老人には大きな特典が生じる。ケガをしたり病気になったりすれば、直ちに丁寧に面倒を見てもらえる。おそらくそれ以上にありがたいのは、自分が家族から愛されていることを自覚し、家の帰属意識を強く感じられる点だ。嬉しい副産物としては、祖父母が子供たちの生活に組み込まれていることが挙げられる。
ブルーゾーンにおける家族の重要性は、いくら強調しても強調しすぎることがない。百歳人について10年余りも研究しているルーカ・ディアナ博士によると、アルバギアで100歳まで生きた人の95%には、面倒を見てくれる娘と孫娘がいるという。
祖父母は愛情を与え、育児の手助けをし、家計の支援をし、知恵や希望、やる気を与えることによって伝統を継承させ、子供が成功するよう後押しする。このような図式がひいては健康を増進し、環境に適応しやすい状況に導き、次世代も長生きさせ、地域社会全体が健康な長寿社会となる。
この長寿環境をkey-wordsにしてみると、「清貧。大家族。やりがい、生き甲斐。社会の尊敬、敬愛。沢山の新鮮な野菜、豆や芋、チーズ、羊や豚肉を週に一度食す。農業、酪農など、体を使った労働。信仰心。若い者を思いやる心。本音で話せる、心を許せる隣人、友人を持つ。赤ワイン」となる。
Danが付け加えたコメントには、「1960年の時点で、サルディニアのブルーゾーンでは、肥満現象はほとんど見られなかった。ところが今では、若者の15%が肥満だ。住民の日常生活の中から、最も重要でユニークな長寿の要素が、急激に失われつつある」のだから、現代の日本人に同じような長寿を求めても無理なことだろうと思う。
<資料>
- 1) ブルーゾーン 世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ 健康と長寿のルール:
- ダン・ビュイトナー(著), 仙名 紀(翻訳), Discover刊, 2010.
- 2) 都道府県別統計とランキングで見る県民性:
- https://todo-ran.com/t/kiji/11099
- 3) Dan Buettner “How to live to be 100+”:
- https://www.youtube.com/watch?v=ff40YiMmVkU