神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
8月号
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一世紀を生きる人々(Centenarian) ~The Blue Zones~(その2)

一つ目のブルーゾーン、サルディニア

 サルディニアのcentenarianの食事は殆どが植物性だ。それにチーズとワイン。チーズはトウモロコシで飼育された家畜のチーズ(オメガ6脂肪酸を多く含む)ではなく、草で飼育された羊のチーズ(オメガ3脂肪酸を多く含む)で、ペコリーノ(Pecorino)チーズを食べる。それに 世界で知られている、どのワインよりもおよそ2~3倍のポリフェノールを含む赤ワイン、カンノナウ(Cannonau)を飲む。

 私もcentenarianを見習って、サルディニアのチーズとワインを調達して食べて飲んでみた。ペコリーノチーズは、私の行きつけのチーズ専門店「EURO ART(目黒区学芸大学)」で切り売りしてもらった。チーズ色というよりも色の薄い、保存のために塩を多く使っているためか、ややザラっとした舌触りのチーズだ。塩気が強いといわれるが、そのまま食べても不味くはない。すりおろして粉にすれば、いろいろな料理に使えそうだ。スパゲッティ・カルボナーラに使うことも多いとWikipediaには書いてあった。

 赤ワインのカンノナウ・ディ・サルディニアは、サルディニア州の代表的なブドウ品種であるカンノナウ種から作られる。フランスのグルナッシュ(Grenache)、スペインのガルナッチャ(Garnacha)と同じ品種だ。私が購入したのは「カンノナウ・ディ・サルディニア・レゼルバ2013(コンテ・ディ・カンピアーノ)」。Amazonで購入した。コルクを開けてグラスに注ぐと、いつも飲み慣れているボルドーの赤ワインとは違ったくすんだ錆色をしている。香りも味も薬草を思わせる原始的な感じだ。私はグルナッシュを飲むのも好きだが、古木から採れるあの深みのある味わいと似ているのかもしれない。次男と一緒に飲み干した後には、瓶の底にごそっと澱がたまっていた。タンニンやポリフェノールが多い証拠なのだろう。

二つ目のブルーゾーン、沖縄

 「ブルーゾーン~世界の100歳人に学ぶ健康と長寿のルール~(訳:仙名 紀)」の著者であるダン・ビュイトナー(Dan Buettner)が、TEDで語った”How to live to be 100+”の話をまずは聞いてみよう。

 二つ目のブルーゾーンは 地球の反対側 東京から南へ1200km 沖縄群島にあります。沖縄は161の小島からなります。その本島の北部は 世界一の長寿地域です。世界で最高齢の女性人口が見られます。疾患無しで、世界で最長寿の人々が住んでいます。

平均的なアメリカ人より7年ほど長生きし、100歳以上の人口はアメリカの5倍。アメリカでは大きな死因である大腸がんと乳がんの発生率は5分の1、心血管疾患の発生率は6分の1です。これだけ多くの長寿者がいる文化だということは、そこに学ぶべきものがあることを強く示唆しています。どんな生活をしているのか? またしても植物性中心の食生活でいろいろな色の野菜がたくさん入っています。そしてアメリカ人の8倍の量の豆腐を食べています。

何を食べるかよりもどう食べるかがさらに重要で、彼らはこまごまとした過食防止の方法を持っています。アメリカではその過食が大問題です。観察された方法のいくつかは、小さめの皿で食べることで、毎回の食事でのカロリー摂取が控えめになっています。ファミリースタイルの食卓でしゃべりながら考えなしに食べ続けるのでなく、カウンターで食事を皿にとり 食卓まで持ってきます。

彼らには3000年前からの古い格言があり、今までで最高の食に関する提案だと思います。それは孔子の言葉で、「腹八分」食事法といわれています。食事の前にそれを簡単に唱えます。満腹の20%手前で食べるのを止める、ということです。満腹感が腹部から脳に伝わるには 30分かかります。そして80%で止めることを思い出すことで、満腹になることを防いでいるのです。

しかしサルディーニャと同様に、沖縄にも長寿と関連したいくつかの社会構造があります。孤独は死への早道です。15年前、平均的アメリカ人には親友が3人いました。現在は1.5人になっています。幸運にも沖縄で生まれたならば、それは生涯を通じて付き合える 6人の友達を持てる社会に生まれたということです。「模合(もあい)」というものがあります。模合に入ると 順番に一定の金額を受け取り、状況が悪い時や、子どもが病気の時、親が死んだ時などには、いつも助けになってくれる誰かがいることになります。

アメリカでは、典型的には 大人の人生は二期に分けられます。仕事の時代があり、その間は生産的です。そしてある日、ボン、と引退します。そして典型的には、安楽椅子に座るか、アリゾナにゴルフをしに行きます。沖縄の言語には「引退」という 単語さえありません。代わりに人生すべてを含める単語「生き甲斐」があります。大ざっぱに訳すると、それは「翌日目覚めるための理由」ということです。
Translated by Masahiro Kyushima Reviewed by Akira KAKINOHANA

生きる目的が長生きにつながる

 私が看取った104歳の女性Sさんは、誰の世話にもならずに100歳を迎えた。東京都からもらった銀杯が「メッキなのよ」と、あまりありがたくなさ気に見せてくれた。心臓弁膜症でCTRが85%もあり、胸部レントゲンを撮るとほとんどが心陰影だった。それでも買い物に行き、料理を作り、風呂掃除もしていた。時々「お風呂掃除していて滑っちゃったのよ」と肋骨を打撲して胸を押さえながら受診することもあった。彼女の目的は、小さいが自分で購入したマンションで慎ましく生き、誰の世話にもならずにそのマンションで人生を終えることだった。一日一日をその目的のために生きて、外来に来るたびに「先生、あなたに看取ってもらうことに決めているから、お願いね」と私に話していた。Sさんの家は私の自宅からほんの2-3分の距離にあるので、「大丈夫ですよ」と伝えると、「ああ、安心する」と笑顔を見せるのが常だった。

 ある日、インフルエンザにかかって高熱を出し、意識朦朧となったため救急車で地域の小病院に入院した。病院の医師から連絡があって、退院については在宅医療をお願いできないか、ということだった。退院前カンファレンスをその病院でやるべく、私の信頼している訪問看護ステーションの所長と、地域包括支援センターのケアマネージャーとともに病院の病室を訪れた。狭いベッドに寝せられてポータブルトイレを横に置くと、ほとんど身動きが出来ない状態だった。「帰っていいっていうから、早く家に帰りたい」と、周りに気を使ってか小声で私につぶやいた。Sさんは103歳になっていた。

 2DKの小さなマンションの、6畳の部屋に介護ベッドを入れて、訪問看護、訪問介護のスタッフを入れた。私は最初のうちは週一回、慣れてきたら月に二回の訪問をした。昭和大学医学部の学生を連れて訪問診療をすることもあって、血圧を測らせる。学生は計測の要領がまだ分からないので、マンシェットの圧を想定以上に上げてしまって、Sさんに「痛いわよ」といわれて恐縮していた。

 今まで何でもかんでも自分でやっていた人が、ほぼ寝たきりになると、弱音を吐くことも多かった。しかし、身体を拭いたり排泄の介助をしたり、ベッドメイキングや簡単な調理をしてくれるスタッフに、次第に感謝を感じるようになった。「ケアしてくれる人たちは、本当に優しくて親切なの。それが分かって、わたしは幸せ」と笑顔で私にいうことが多くなった。結局、ある日の夜中、ポータブルトイレの脇で倒れている、と24時間体制で入室したケアスタッフが発見して私に連絡があった。着替えて10分ほどで駆け付けると、そのケアスタッフがベッドに引き上げて、Sさんは静かに横たわっていた。看取る約束は果たしたわけだが、淡々としたいつもの医師としての役割にはドラマのような感動シーンはない。Sさんの耳元で「よく頑張ったね」と伝えて、唯一の身内である甥ごさんに電話をした。104歳の大往生だった。

Centenarianに学ぶ健康と長寿の9つのルール

 Sさんのように、生きる目的をしっかりと持っている人は、そうでない人に比べると長生きする、という研究結果は多くある。しかし、壮大な目標を持つ必要はない。孫の成長を見続けたい、ガーデニングできれいな花を咲かせたい、500m続けて泳げるようになりたい、そんなことでいいのだ。人にはそれぞれの「生き甲斐」が必要だ。

 ブルーゾーンの著者のダン・ビュイトナーは、世界のcentenarianから学んだ長寿の秘訣を9つに分類した。最初のルール1は「適度な運動を続ける」ことだ。しかし、centenarianは、いわゆる我々が 考えるような運動をしているわけではない。 代わりに、彼ら彼女らの生活自体が、常に肉体活動を要求している。100歳になる沖縄の女性達は、裏の畑に行って野菜を作ったり収穫したり、人が集まる色々な場所に行き、座敷の上で毎日30回も40回も立ったり座ったりしている。下の三角形の図にある「Move Naturally」がそれにあたる。

 次のルール2が「腹八分で摂取カロリーを抑える」だ。そのためには、小さめの器に料理を取り分け、取り分けたら次に手が出ないように料理は片づけてしまおう。一口口に含んだらよく噛んでゆっくりと味わって食べることだ。毎日体重計に乗り、少しの体重増加にも敏感になることの方が良い。

  • ルール3 植物性食品を食べる
  • ルール4 適度に赤ワインを飲む
  • ルール5 はっきりした目的意識を持つ
  • ルール6 人生をスローダウンする
  • ルール7 信仰心を持つ
  • ルール8 家族を最優先にする
  • ルール9 人とつながる

 ダン・ビュイトナーはこの本の最後で、「インタビューした百歳人たちには、愚痴をこぼすような人は一人もいなかった。日本の長寿の専門家の一人、広瀬信義博士も同じ意見だ。長寿者はだれもが、生まれながらの人気者だったり、自然と人を引きつけるような人物だ。好かれる老人は社会とのつながりがあり、訪れる人も多く、世話人役でもある。彼らはあまりストレスを感じず、しっかりとした目的を持った人生を送っている」と書いている。

 名論卓説7月号の(その1)でもまとめたが、「清貧。大家族。やりがい、生き甲斐。苦難を超えて生き抜くバイタリティ、ポジティブ思考。社会の尊敬、敬愛。沢山の新鮮な野菜、豆や芋、発酵食品を食す。羊や豚肉を週に一度食す。腹八分。農業、酪農など、体を使った労働。信仰心。若い者を思いやる心。本音で話せる、心を許せる隣人、友人を持つ。赤ワイン」これらがkey wordsで、必要十分条件である。しかし、これらの条件を満たす人はそう多くはない。

 ベルギーの人口動態学者であるミッシェル・ブーラン博士は、サルディニアで40もの市町村を訪問し、多くの百歳人にインタビューしてデータをとり、「超長寿インデックス(EL I=Extreme longevity index)」と呼ぶ指標を作った。サルディニアではこの数値が非常に高い。彼は長寿者が最も多い地域を中心に、地図上に青いインクで円を描いた。それが「ブルーゾーン」という名称のいわれで、後に人口動態学者たちは皆この名称を使うようになったという。それでも、サルディニアのある村の百歳人は人口2500人のうち7人。アメリカでは平均すると5000人余りに1人だった。逆に、サルディニアでも人口2500人のうち2493人は100歳以前に死んでおり、アメリカでは5000人のうち4999人はcentenarianにはなれない。今でも、centenarianは稀有で貴重な人々なのだ。だが、100歳生きないからといって人生は暗くもないし、捨てたものでもない。人それぞれに束の間でも幸せで豊かな人生があればそれでいいのではないか。むしろ、日本国民すべてが100歳まで生きるというウソやデマゴーグで国民を欺くのは良くない。それを教えてくれるのもcentenarianの研究の成果でもある。

<資料>

1) ブルーゾーン 世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ 健康と長寿のルール
ダン・ビュイトナー(著), 仙名 紀(翻訳), Discover刊, 2010.
2) Dan Buettner “How to live to be 100+”
https://www.youtube.com/watch?v=ff40YiMmVkU

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