神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
2月号
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鎌倉とオレアンドリン中毒(そのⅡ)

肺出血

 2017年7月に、綺麗に花開いていた夾竹桃に引き寄せられ、私のいとこの稔さんはその強い香りを胸一杯に吸い込んだ。

 夾竹桃は排ガス・公害に強いため、公道や高速道路に植えられていることの多い花だ。広島に原爆が落ちた後、最初に花を咲かせた植物が夾竹桃であったことから、復興のシンボルになった。千葉市、尼崎市、広島市、鹿児島市など、市町村の花に指定されているところも多い。葉が竹に、花が桃に似ていることから夾竹桃と名付けられた。「夾」の字は、挟む、混ぜるという意味があり、竹と桃が混じり合った姿を言葉にしたと思われる。しかし、その花言葉は「油断大敵」「危険な愛」「用心」であり、昔から強い毒性がある事が知られている。

 毒の成分として知られているものには、cardiac glycosides(強心配糖体), saponins(サポニン), digitoxigenin(ジギトキシンの加水分解により得られるカルデノライド), oleandrin(オレアンドリン強心配糖体), oleandroside, neriosideなどが知られており、いずれも毒性が非常に強く、花、葉、枝、茎、根、果実の全てに存在する。有毒物質の代表ともいえる青酸カリが150〜300mg/kgの致死量なのに比べて、オレアンドリンの致死量は0.3mg/kgと1000倍強い。当然、夾竹桃を燃やした時に出る煙を吸えば中毒症状を来す。樹液に触ったり、誤って口の中に入れる事があれば、1時間以内に皮膚炎を起こし、様々な中毒症状を呈する。

・blurred vision 視野のぼやけ
・visual disturbances 光の輪が見えるなどの視力障害
・diarrhea 下痢
・nausea 吐き気、vomiting 嘔吐
・stomach pain 胃痛
・loss of appetite 食欲不振
・irregular or slowed heartbeat 不整脈または徐脈
・weakness 筋力低下
・low blood pressure 血圧低下
・confusion 錯乱
・dizziness めまい
・headache 頭痛
・fainting 失神
・depression うつ状態
・drowsiness or lethargy 傾眠傾向または無気力

 夾竹桃の強い香りを胸いっぱいに吸い込んでから30時間後に稔さんは喀血した。救急入院した時に、夾竹桃の中毒ではないかと訴えたが、主治医はピンと来なかったようだ。確かに、上記に挙げた急性症状を1時間以内に起こしたわけではないので、オレアンドリン中毒を疑うには根拠に欠ける。文献検索でもヒットしなかった。しかし、稔さんは夾竹桃が原因だと信じて疑わない。

綺麗な花に強い毒性

 夾竹桃は原産地がインドで18世紀に中国から日本に伝わって来たといわれる。英名はOleander。6〜9月に、白、赤、ピンク、黄色の花を咲かせる。前述したように強い毒性を持ち、歴史上アレキサンダー大王の軍隊がこの枝を串にして肉を焼いたために兵士が死んだと伝えられている。枝を箸代わりにして中毒を起こしたり、1980年には千葉県の農場で牛に与える飼料の中に夾竹桃の葉が混入していたために、この飼料を食べた乳牛20頭が中毒を起こし、そのうち9頭が死亡した記録が残っている。この時の葉の混入量は牛一頭あたり0.5gだったというから、いかに危険な植物なのかが分かる。我々地域医療担当者としては、身近にあるこのような毒性の強い植物があることに、もっと注意を払う必要があるだろう。

稔さんの提言

 稔さんはFacebookやインターネット上でこんな風に注意を呼びかけている。海人は稔さんのペンネームだ。

「最も危険な園芸植物キョウチクトウ」
鎌倉いきもの会議 山田 海人

 この時期赤や白い花を咲かせているキョウチクトウは、きれいで育てやすい植物として人気があります。しかし、子供が葉をいじくっていて樹液が口に入り、亡くなるなど毒性の強い木としても知られています。

鎌倉のキョウチクトウ
 鎌倉でも海岸の道路、公園、大船のフラワーセンターでも見られる身近な植物で、自宅の庭樹として育てている家庭も多くみられます。鎌倉市役所のゴミの出し方の記事には剪定材にキョウチクトウは出さないで、燃やすごみで出すように指導しています。キョウチクトウは毒性が強いと注意しているのです。しかし、鎌倉市では校庭や通学路、公園など、幼児・児童が触れるような場所でも植栽されていますので心配です。

猛毒なキョウチクトウ
 では欧米ではどのようにキョウチクトウ(夾竹桃 Nerium Oleander)の毒性を教えているのでしょうか?キョウチクトウにはオレアンドリンOleandrin とNerineの毒が猛毒で、青酸カリの50倍と言われています。経口中毒では、嘔吐、発汗、下痢、不整脈、四肢のしびれ、心肺停止から死亡することもあります。
 原産地はインド・スリランカですが、貧しさゆえに自殺者の多くが黄色い花のセイヨウキョウチクトウの実を服用して、自殺する人が年間数千人もといわれています。欧米ではキョウチクトウの毒性でアレルギー症状が発症することを「キョウチクトウ中毒」、「オレアンドリン中毒」と言って救急車を呼ぶ、対応の医師にも「キョウチクトウ中毒」とはっきり伝えることが大切だと言われています。こうしてアメリカでは年間850件(2002年)ものキョウチクトウ中毒が報告されています。
 キョウチクトウの花、葉、枝、幹、根、果実などすべてに青酸カリの50倍をこえる猛毒を持っています。さらにキョウチクトウの花粉は花から放たれ、激しい花粉症になります。鎌倉では6月に花の香りが強く(粉臭い匂い)なりますが、匂いを嗅いだだけで翌日、肺から出血して、急性呼吸不全の重症になった例もあります。
 キョウチクトウは子どもの触れるようなところに植えると危険です。ボーイスカウトでマシュマロをこの枝で串刺して焼いて多くのキョウチクトウ中毒の患者がでました。日本でもハシを忘れた児童に先生がキョウチクトウの枝で作ったハシを渡しキョウチクトウ中毒になった例もあります。2012年鳥取で45才の女性が葉を服用して自殺したこともあります。千葉ではキョウチクトウの葉がきれいだと刺身を載せる葉に使って問題になりました。キョウチクトウの樹液を目に入れたり、口にしては危険です。枝をバーベキューの串に、ハシに、ツマヨウジにはもちろん絶対使ってはいけません。
 キョウチクトウの切り花、草笛遊びは危険です。美しい花なので花瓶にと考えてしまいますが切り花は止めてください。また、飼っているペットもキョウチクトウに触れる機会が増えます。その水を飲んだペットは中毒症状をおこします。

キョウチクトウの剪定
 欧米では庭のキョウチクトウの剪定は専門家に依頼すべきだと勧めています。やむをえず行う場合は細心の注意を払い行うこと。行った後は手袋、帽子、作業服、靴下、靴をそれだけを専用に洗濯するよう勧めています。そして剪定材は「燃えるゴミ」として出し、1000℃を超える高温で焼却します。

キョウチクトウの煙
 欧米の消防士は火事場のキョウチクトウにも気を配ります。炎がキョウチクトウに移ると煙が有毒な煙になり、目や呼吸器に中毒症状が出て重症になるからです。鎌倉市では、キョウチクトウの剪定材は焚火で燃やしたりすると有毒な煙被害が出ることから「燃えるゴミ」として出し、千数百度もの高温で焼却することを勧めています。
 キョウチクトウの葉など家畜に与えて事故が起きています。ブタ、ヤギやヒツジに草など与えることがありますが、キョウチクトウの葉など与えると「キョウチクトウ中毒」で死んでしまいます。1980年に千葉の牧場で飼料にキョウチクトウの葉が混入していて乳牛20頭が中毒症状を起こし、9頭が死亡したことがあります。毒は体重に応じて効くので牛(人・馬・牛は葉1枚で致死量)に比べて体重の軽い犬や猫はかじっただけでも死ぬことがあります。ペットのキョウチクトウ中毒にも注意しましょう。

キョウチクトウへの注意
 危険なキョウチクトウは日本各地、外国でも身近な樹木です。欧米では学校はじめに注意喚起が行き届いています。しかし、2000年にロサンゼルスで3歳と2歳のお子さんがキョウチクトウ中毒で亡くなってしまいました。
 日本ではキョウチクトウの注意喚起はあまり行われていません。花の時期が終わってしまうと、識別するのは難しくなります。咲いている時期に特徴を覚えて、キョウチクトウを覚えておきましょう。

 「キョウチクトウ中毒」は患者の自己申告が大切です。ですが花粉被害では、洗浄液、痰などから花粉の検出は難しく、キョウチクトウの被害と認定されないことがあります。キョウチクトウ中毒の被害は認定が難しく、被害が潜在化しています。高速道路など人が近づかない場所はともかく、家庭、学校、公園など身近な所にはキョウチクトウは植栽しないようにいたしましょう。

BorracheroあるいはDatura

 コロンビアでは、スコポラミンを使った犯罪が日常茶飯事に起きているという。女性を囮に、客がトイレに行くなど席を離れた時に、スコポラミンを酒に入れて意識をなくさせる。自白剤でもある薬の作用を利用して、ATMの暗証番号を聞き出し、全財産を抜き出すと、被害者を路上に捨てていくのだという(National Geographic “Scam City 2”)。その原料になるのが朝鮮朝顔(学名Datura metel)、コロンビアではborracheroといわれるトランペットに似た形の花だ。経口後30分程度で口渇が発現し,体のふらつき、幻覚、妄想、悪寒など覚醒剤と似た症状が現れる。成分はHyoscyamine,Scopolamine などのトロパンアルカロイドなどだ。日本では1804年に世界で初めて、全身麻酔による乳がん摘出手術に成功した、華岡青洲が用いた「痛仙散」の主剤が朝鮮朝顔であることから、第100回日本外科学会総会記念郵便切手にも描かれた。

 コロンビアでは街のあちこちにこの花があり、腕のある犯罪者なら、この種から簡単にスコポラミンを生成するという。子供を持つ母親は、黄色と白の花の下では眠らないようにと子供たちに教えている。その花粉を吸っただけでおかしな夢を見る事があるというから、注意が必要だ。

 実は、この花は意外と日本でもあちこちに見られる。私がいつもwalkingをする道の途中にこの花を栽培している家がいくつもある。左の写真は、つい先月12月11日に撮影したものだ。このお宅の方がそんな事を知って栽培しているのかは知らないが、花の知識、植栽の知識に、健康に関する項目を加える事が大切だ。

 毒をもつ植物は、これ以外にも、スズラン、アジサイ、スイートピー、トリカブト、クララ、ゲルセミウム・エレガンスなどがある。特にゲルセミウム・エレガンスは世界一強い毒性を持つといわれ、致死量は0.05mg/kgだ。めまい、嘔吐、腹痛、下痢、筋弛緩、呼吸筋麻痺、視力減退など様々な症状を引き起こす。以前弦巻小学校で似たような花があったが、今は無くなった。図鑑だけではなく、実際にその花を観察し、知識を高めることが必要だと思う。バーチャルな世界だけで育っていく子供ではなく、field workを実践することが子供たちの安全につながるのだ。

〈資料〉

1) 【キョウチクトウ(夾竹桃)とは?】毒性や致死量などの注意点は?:
https://horti.jp/6644
2) Discover The Forest.org:
https://homeguides.sfgate.com/toxic-oleander-humans-82304.html
3) キョウチクトウ
https://ja.wikipedia.org/wiki/キョウチクトウ
4) 山田海人の鎌倉いきもの会議
http://blog.livedoor.jp/kamakuraikimono/archives/8858058.html
5) 人間をゾンビに変える薬:
http://x51.org/x/03/06/1812.php
6) 日本郵便:
https://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/stamp/tokusyu/2000/0411/index.html

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