神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
3月号
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脳内のリンパ管と老廃物排泄システム

寝不足が脳に与える影響は深刻

米ミシガン州立大学の睡眠・学習ラボ(Sleep and Learning Lab)代表を務めるKimberly Fenn氏らの研究によれば、睡眠不足が認知機能に与える影響は注意力だけにとどまらず、予想以上に大きな危険を伴うことが分かったという。Health Day Newsが2020/01/07に報じた。以下はその内容だ。

 研究方法は、138人の参加者のうち77人には一晩中眠らずに起きていてもらい、61人には自宅で普段通りの睡眠を取ってもらった後に、認知機能を比較するというものだ。

 具体的には、a)実験当日の夕方と翌朝に2つの認知機能に関するテストを実施、b)光に反応してボタンを押すまでの時間を測定、c)注意力を評価途中で作業を中断されても1つのタスクを完了させるために複数の手順を踏むことが出来る能力「プレースキーピング」の評価を行った。

 その結果、睡眠不足のグループでは、作業が中断された後にプレースキーピングエラーを起こす確率は、実験当日の夕方には15%だったのに対し、翌朝には30%にまで急上昇したことが分かった。一方、自宅で普段通りに眠ったグループでは、実験当日の夕方と翌朝でエラーを起こす確率に変化は見られなかった。

 Fenn氏は「今回の研究では、睡眠不足によって不注意によるミスが起こる確率は3倍に上ったが、プレースキーピングエラーが起こる確率も2倍になることが示された。これは驚くべき結果だ」と説明。

 共著者の一人で同大学のMichelle Stepan氏は「私たちの研究結果は、睡眠不足が認知機能に与える影響は注意力に限られるという一般的な見方を覆すものだ」と指摘。「睡眠不足でも、例えば医師であれば、患者のバイタルを取るといった日常的な作業は問題なく行えるかもしれない。しかし、いくつかの手順に従う必要がある医療行為では、睡眠不足の状態だと予想以上のミスを犯す危険性が高い可能性がある」と説明。Fenn氏も「睡眠不足は、仕事や生活のあらゆる面に多大な損失をもたらすことを知っておくべきだ」と注意を促した。

では睡眠中に何が起きているのか?

 睡眠中にどんなことが脳で行われ、何が変化したのだろうか。その答えに近づく研究成果を発表したのが、Rochester大学医療センター(URMC)トランスレーショナルニューロメディシンセンター長であるMaiken Nedergaard女史だ。Rochester大学のHPに、彼女の研究成果を解説するページがあり、「眠ることはことによると脳を綺麗にする事(睡眠中に脳がゴミを除去することが明らかになった)」という題で、2013年10月17日付で報じていた。6年ほど前のものだが、Science誌に載ったくらいだから相当大きなインパクトがあったはずだが、恥ずかしながら私は知らなかった。今はその事実に驚いている。

 非常に興味深い内容で、是非皆さんにも知って頂きたいが、記事は英語なので、拙いものだがまずは私が日本語に訳したものを載せさせていただきたい。

 この知見は、良眠は頭を明晰にするという古いことわざに新しい意味を与えるものです。新たな研究により、最近発見されたシステムが、睡眠中に脳から老廃物を洗い流す主な役割を持つことが示されました。この新事実は、睡眠の生物学的目的に対する科学者の理解を変え、神経学的治療の新しい方法を提示する可能性が出てきました。
 「この研究は、脳は、睡眠時と覚醒時に異なる機能状態を持っていることを示しています」また、「実際、睡眠の回復性は、覚醒中に蓄積する神経活動の副産物の積極的なクリアランスの結果であると思われます」と、Maiken Nedergaardは述べています。

 本研究は、今日のScience誌で発表されたもので、脳のユニークな排泄物除去法、言い換えるとGlymphatic systemが睡眠中に非常に活発であり、アルツハイマー病やその他の神経障害の原因となる毒素を除去することを明らかにしています。 さらに、研究者は、睡眠中に脳の細胞のサイズが小さくなり、廃棄物をより多く除去できることを発見しました。

画像は脳の血管の背に乗った「配管システム」を介して脳に流入する脳脊髄液(青色)を示している。

 なぜ睡眠が必要なのか、それは古代ギリシア時代から、哲学者と科学者の両方を魅了してきた問いです。 実用的な観点から考えると、睡眠は不可解な生物学的状態といえます。 ショウジョウバエからセミクジラまでのあらゆる動物種は、何らかの形で眠ることは事実です。しかし、その動物が休眠している時間は、特に捕食者が潜んでいるときは危険な時間でもあり、重大な欠陥ともいえます。もし睡眠が、生体力学的生物学的機能を果たさないとすれば、つまり生きていく上での重要な役割を担っていないとすれば、それはおそらく進化というプロセス上の最大の間違いになるだろう、という結論に至りました。

 最近の調査結果は、睡眠が記憶を統合するのに役立つことを示していますが、この利点は前述の弱点を上回っていないようであり、睡眠と覚醒のサイクルには、もっと重要なものがあるに違いないと科学者は推測しました。

脳内老廃物排泄システム

 脳に特有の、これまで知られていなかった老廃物除去システムが、昨年Nedergaardとその同僚研究者達によって新しく発見されました。細胞の廃棄物を処理するシステムであるリンパ系は、脳まで拡張されていません。これは、脳が自身の閉じた「生態系」を維持し、脳に入るものと出るものを厳密に制御する、複雑なシステム分子ゲートウェイ(血液脳関門と呼ばれる)によって保護されているためです。

 廃棄物を除去する脳のプロセスは、生きている脳でしか観察できないという単純な事実のために、長い間科学者には手が出せない領域でした。しかし、新しいイメージング技術、二光子顕微鏡法が登場してきたため、この技術を使って研究者は人間によく似たマウス脳を観察することが可能になりました。

 上の図のように、脳内老廃物廃棄システムは、脳の血管に跨った配管システムになっています。脳の組織(神経細胞としてのニューロン、グリア細胞としてのアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアのことを指す)を介して脳脊髄液(CSF)を送り込み、動脈拍動により廃棄物を静脈系に洗い流す、つまり最終的に一般的な血液循環システムに入り、最終的には肝臓に送り込むわけです。脳からの廃棄物のタイムリーな除去は、アミロイドベータがアルツハイマー病に関連する様に、有毒なタンパク質が蓄積する病態にあってはこの廃棄システムが必須なものだといえます。実際のところ、ほぼすべての神経変性性疾患は、細胞廃棄物の蓄積と関連しているからです。

 「なぜ我々は睡眠が必要なのか」という問いに答える手掛かりになるヒントは、Glymphatic system(Glial cellとlymphatic systemを合わせた造語)が睡眠中にさらに活発になるだろう事で、事実脳で消費されるエネルギー量が睡眠中に劇的に減少しないという事実でした。脳脊髄液を押し出すには、多大なエネルギーが必要であるため、研究者たちはこう推察しました。洗浄プロセスは、目覚めて活発に情報処理しているときに脳が実行する必要がある機能とは互換性がないのではないか。

 マウスでの一連の実験を通じて、研究者たちは、睡眠中にGlymphatic systemがほぼ10倍活発になり、睡眠中の脳が大幅により多くのアミロイドベータを除去することを観察しました。

 Nedergaard氏は、「脳は自由に使えるエネルギーが限られているため、2つの異なる機能状態(覚醒して意識するか、眠って浄化するか)を選択する必要があるように思われます。家でパーティーを開く事を考えてみて下さい。あなたはゲストをもてなす事と家の掃除のどちらかをする事は出来ますが、両方同時にする事は出来ないでしょう」と述べました。

 もう一つの驚くべき発見は、脳内の細胞が睡眠中に60%「収縮」することでした。この収縮はより広い細胞間スペースを作り、脳脊髄液が脳組織を通して、より自由に洗浄できるようにしていました。これとは対照的に、目を覚ますと、脳の細胞はお互いにより近づき、脳脊髄液の流れを抑えるのです。

 研究者たちは、ノルアドレナリンが睡眠中は不活発になる事を観察しました。この神経伝達物質は、脳が警戒を要する時、特に恐れや外部刺激に対して反応して発射されるものです。研究者たちは、ノルアドレナリンが「主要制御因子」として、睡眠と覚醒の周期において、脳の細胞の収縮と拡大を制御しているのではないかと推測しています。

 「これらの発見は、アルツハイマー病のような『汚い脳dirty brain』疾患の治療に重要な意味を持っています」と、Nedergaardは述べています。「脳がGlymphatic systemをどのように、いつ活性化させてゴミをきれいにするのかを正確に理解することは、このシステムを制御し、より効率的に働かせるための重要な第一歩となるはずです」

脳にもリンパ管があった!

我々が脳の解剖、生理を学んだ50年前には、脳の中のリンパ組織について教わったことはなかったように記憶している。しかし、最近になって、それは見つけられなかっただけで、実は存在していたとAntoine Louveau氏らの研究が証明した。

 中枢神経系の特徴の1つは、古典的なリンパ排水システムの欠如です。 中枢神経系は、髄膜コンパートメント内で起こる絶え間ない免疫監視を受けることが認められていますが、中枢神経系からの免疫細胞の出入りを支配するメカニズムはよく理解されていません。髄膜に出入りするT細胞ゲートウェイを検索する際に、我々は硬膜洞の内側を覆う機能性リンパ管を発見しました。

 これらの構造は、リンパ管内皮細胞のすべての分子特徴を発現し、脳脊髄液から体液と免疫細胞の両方を運ぶことができ、深部頸部リンパ節に接続されています。これらの血管のユニークな位置は、今日までその発見を妨げていた可能性があり、それにより「中枢神経系にリンパ管が存在しない」という長年の概念に貢献していた可能性があります。中枢神経系リンパ系の発見は、神経免疫学における基本的な仮定の再評価を必要とする可能性があり、免疫系機能不全に関連する神経炎症性疾患および神経変性疾患の病因に新たな光を当てるでしょう。

この領域の研究はさらに急速に進んでおり、IL-4産生T細胞が学習と記憶に重要な役割を果たしているという、髄膜免疫に関する報告もある。今後は見逃せない領域の一つだ。

〈資料〉

1) Stepan ME, et al. J Exp Psychol Gen. 2019 Nov 21.
 
2) To Sleep, Perchance to Clean: University of Rochester Medical Center.:
https://www.urmc.rochester.edu/news/story/3956/to-sleep-perchance-to-clean.aspx
3) Glymphatic system:
https://en.wikipedia.org/wiki/Glymphatic_system
4) Antoine Louveau et.al: Structural and Functional Features of Central Nervous System Lymphatic Vessels. Nature 523, p337-341, 2015.
 

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