趣味の欄に、いつもは「マリンスポーツ全般、読書、映画鑑賞」と書くのだが、以前からここで綴っているように、old riderとしてYAMAHA DRAGSTAR 400に乗る「古稀ライダー」になったので、最近はモータースポーツ(バイク)を加えることにしている。
趣味の一つと書いた映画鑑賞について思い起こしてみると、映画に興味を持ったのは中学生の頃だったと思う。父親が買った8mmカメラを借りて、撮ったフィルムを町のカメラ店で現像してもらい、それを編集(昔は8mmフィルムをはさみで切って、写真用の接着剤やテープでつないでいた)するのが楽しみだった。明かりを消して映写機を回し、襖をスクリーン代わりにして見ていた画像は、何ということもない家族の記録だったが、それでも十分楽しかった。それが私の映画鑑賞の始まりだったように思う。それが高じて高校生の時には、16mmカメラを借りて短編映画を撮ったこともあった。
今はヒカリエになっている渋谷の東急文化会館には、屋上にプラネタリウム、1階に封切りのロードショーフィルムを上映する大きな映画館「渋谷パンテオン」があった。父親はよく私を連れて、この映画館の指定席に座り、黒澤明の作品やアカデミー賞を取った大作の洋画を観に行くのが好きだった。診療を終えるのが遅くなって、慌てて映写が始まっている暗い館内に入り込む、ということも度々あった。昔は案内の若い女性が、小さいライトを下に向けて、足元を照らしながら館内を席まで誘導してくれた。それが映画を観るという期待感と相まって、何ともわくわくしたのを覚えている。
ロードショー館は入場料が高い。高校生の小遣いでは見られないので、自分で行くときには入場料の安い「三本立て」の映画館で観るようになった。東急文化会館には、6階の奥まったところに「東急名画座」という小さな映画館があった。チケット代金は記憶が定かでないが、100円か200円だっただろうか。待合には、たばこの煙を燻らす怪しげな大人たちが数人座っていた。職にあぶれ、暇を持て余して映画館にいるのか、映画製作に携わりたい芸術家の卵なのか、陰のある大人たち。その中に混じって、高校生の私は背伸びをしていた。
ルイ・マルの「死刑台のエレベーター」に流れるマイルス・ディヴィスのトランペットに酔いしれ、ヴィットリオ・デ・シーカの「ひまわり」で名優ソフイア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの名を知った。ジャン=リュック・ゴダールの「Week-end」の長回しや、フランソワ・トリュフォーの不可解な「華氏451」の画面を見つめ、クロード・ルルーシュの「男と女」のせつないすれ違いに心を震わせ、雨のシーンで流れるフランシス・レイのサンバ・サラヴァのスキャットでフランスのespritを浴びていた。映画界に新風を吹き込んだ若い映画監督たちのヌーヴェルヴァーグを遅れて追体験していたのがこの頃だった。
Amazon prime
医療の世界に入ると、若かりし日が懐かしくなるほど映画館に足を運べなくなった。その代わり、若林小学校の裏にあった半地下のレンタルビデオショップで映画を何本も借りて見ていたこともあった。今はその店も潰れてなくなった。
2010年からは日本でも、iTunes Storeが映画をnet配信するようになり、レンタルが1本200円という値段で見られることから、毎週5-6本を見るようになった。2016年5月から、AmazonがAmazon Video Directサービスを開始。いつの頃からかprime会員になっていた私も、この映画配信サービスを無料で受けられることに気付いた。それからは、映画、連続テレビ番組、ドキュメンタリーと、世界中に流れる映像文化を好きなだけ見続けている。MacBook ProのRetina displayを手に入れたのは、こうした映像をきれいに見たいがためだった。
まだまだCOVID-19の流行が終息せずに燻っている今、家にいて面白い映画を観るのはどうだろうか。私が推薦したい映画、テレビ番組はいくつもあるが、ゆっくりと時間を使って見るのにはシリーズ物が最適だ。巷ではWalking Deadやバイオハザード、プリズン・ブレイク、24-Twenty Four-などが人気だが、私のおすすめはちょっと違う。描かれている人間ドラマ、医療的な扱いや、映像のすばらしさに感心したものをご紹介したい。
2009~2016年「ロイヤル・ペインズ」
とあるニューヨークの病院でERドクターとして活躍していたハンクは、救急患者と予定手術患者の優先順位でもめて、手術予定だった病院理事長を死なせてしまう。責任を取らされたハンクが弟エヴァンとともに気晴らしのつもりで向かったのは、たくさんの金持ちが別荘を構えるハンプトンズだった。たまたまERドクターとしての技術を使って住民の命を助けたことから、セレブ専門お抱え医師“コンシェルジュ・ドクター”として「ハンク・メド(ハンク診療室)」を開業することになる。毎回思いもかけない病気になった患者たちを、どう処置するのか、ハンク役のMark Feuersteinの診察、治療が堂に入っていて、大変面白い。こんなことも在宅医療で出来るのか、と目から鱗が落ちる思いをする人も多いはず。
2018~2019年「ジャック・ライアン」
CIA分析官であり、文官として現場には出ないはずの主人公が、紛争や政治的陰謀の真っただ中で苦悩し、答えを探して活躍する物語。編集、カット割りなどがとても丁寧で、良質な映像が重厚さを与えている。トム・クランシー原作。
2011〜2019年「SUITS」
天才的な頭脳、記憶力を持つ青年マイク・ロスは、若者にありがちな稚拙な誤りを重ねながら、ハーバード大学を卒業した事にして、嘘で塗り固めた履歴の元に弁護士事務所に入り込む。上司になった、美男子で仕事が出来るプレイボーイのハーヴィ・スペクターとの駆け引きが危うくて、ついついのめり込んでしまう。マイクのガールフレンド役を演じたRachel Meghan Markleが、イギリス王室のサセックス公爵ヘンリー王子と結婚したことでも話題になった。
2011〜2017年「TEENWOLF」
狼人間 (Werewolf) というsupernaturalを扱ったteen dramaだ。噛まれると満月にwerewolfに変身するという単純なストーリーなのだが、CGの出来栄えは抜群で、無理なくストーリーに感情移入できる。高校生という設定の中、大人とは違った行動や考え方に、昔の自分を重ねてteenになり切る事ができる。Werewolf hunterが敵役として出てくるが、ロメオとジュリエットを彷彿とさせる切ない恋愛がどうなっていくのかと、期待を胸に次の配信をついついクリックしてしまう。Teen choice awardを何回も取っている秀逸な番組だ。
2015〜2020年「BOSCH」
ロサンゼルス州市警殺人課刑事ハリー・ボッシュを主人公とする刑事ドラマ。主演しているTitus B.Welliverは1961年生まれだから、54歳でこの役を始めて今は59歳になるわけだ。刑事物というと、走ったり暴力を振るったり拳銃をぶっ放したり、というマッチョな主人公が多いが、彼が演じるボッシュは、哲学者、大学教授のようだ。物静かで、情報収集と客観的なデータに基づく推論が、ヒビが入っただけに見えた小さな事実から、大きな真実を暴いていく。真実に迫る彼の行動は容赦ない。それが人を傷つけることもあって、過去を背負った彼を沈鬱にする。静かに流れるcool Jazzが心地よい。
2014〜2018年「ストライク・フォース」
テオとウィレム・ニーセンという二人の刑事の物語。テオは型破りでルールに縛られない自由な男で、女性に持てる。ウィレムは四角四面の、日本でいえば石部金吉。この二人がどのように物事を対処するかを見ていると、これはシリアスでコミカルなドラマだと分かる。オランダのドラマは初めてだったが、違和感はない。主演のイェロン・ファン・コニングスブルッヘは俳優でコメディアンだが、その存在感がこのドラマを引き立てている。ウィレム役のデニース・バン・デ・ヴェンも職責に忠実で、テオに迷惑をかけられながらも友人として信頼を寄せる人間味豊かな役をうまく演じている。ヨーロッパの中心であり、ドラッグや売春、人身売買などの闇を持つ、アムステルダムという都市を抱えるオランダの状況も良く分かる。悪徳警官、権力者の腐敗、男と女、親と子の愛、世界中で起こっている問題は、国境を超えて人間に特有なものだと分かる。
2015〜2019年「Blindspot」
日本語の題は「ブラインドスポット タトゥの女」だ。記憶を失い、全身に犯罪の情報につながる刺青 (tattoo) が刻まれた女性と、彼女の刺青を用いて、犯罪を解決するFBI捜査チームを中心に描く。主演男優サリバン・ステイプルトン(Sullivan Stapleton)は、オーストラリア出身の俳優。アクションテレビドラマ『ストライクバック:極秘ミッション』のダミアン・スコット役は、マッチョでセクシーな男臭がムンムンする特殊部隊の兵士役だったが、Blindspotのカート・ウェラーは、いつも歯を食いしばって耐える真面目なFBIエージェントで、ダミアン・スコットのチャーミングな笑顔が好きだった人にはちょっと期待外れかもしれない。しかし、主演女優のジェイミー・アレクサンダーが、翳のあるミステリアスなジェーン・ドゥ (Jane Doe) 役、女性的でありながら元Navy SEALという強い女をとてもうまく演じている。ちなみに、Jane Doeとは身元不明の女性を示す言葉で、男性の場合はJohn Doeとなる。日本でいう「名無しの権平」だ。
2013〜2017年「スニッファー」
日本語の題は『スニッファー ウクライナの私立探偵』で、実際にウクライナで制作された。特殊な嗅覚能力を持つ主人公が、現場に残されたニオイという見えない証拠を嗅ぎわけ、犯人をプロファイリングし、真相を究明していく物語。第一話のオープニング場面から、明るく陰のない画面に驚く。ウクライナの空気が澄んでいるからか、人々の色素が薄いからか、人が少ないからか、とにかくハイトーンカラーでパステルカラーに溢れた画像が目に優しい。それに、出てくる女優さんがみんな美人なのにも驚いた。画面を追うと、カメラワークがなめらかでダイナミックで、focusが素晴らしくシャープで感動する。クローズアッブの映像が多く、被写体の美しさを際立たせる。そして、絞ったところから被写界深度が広がって周囲の情報が入ってくる緊張感が快い。その画面に主人公の乗ったV8-6.2L 707馬力の真っ赤なDODGE CHALLENGER SRTが入り込む。ウクライナのテレビ映画、侮れない。
〈資料〉
- 1) 東急文化会館(清水建設):
- https://bit.ly/37O0Icl
- 2) 救命医ハンク セレブ診療ファイル:
- https://bit.ly/315EzoC
- 3) Amazon Prime Video::
- https://amzn.to/2ANCBOY