神津 仁 院長

神津 仁 院長
1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
2017年
世田谷区医師会高齢医学医会会長
2018年
世田谷区医師会内科医会名誉会長
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
2月号
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Back to the new normal

   緊急事態宣言が1都3県に発布され、11月から続いている大きな意味でいう第二波がウィルスの変異をともなって世界を席巻している。日本は国民にお願いをするレベルで、他国がかなり強いペナルティーを要求しているのとは次元を異にしている。1日の発生者数も、欧米では万の単位で、日本はその10分の一だから、緊急事態に対応するやり方にも手綱が緩むのかもしれない。我々は、以前と同じ世界に戻れるのかどうか、ウィルスに試されているようだ。

新クリニックの建築過程


   12月、1月号に亘って「廃業そして開業」の話を書いた。6月に色々と医業継承の準備をしていたが、東京都に出す書類の期限が6月下旬で、その可能性が限りなく0に近づいた時点で、自宅で開業することを実現する方向に考えを180度変えた。自宅で開業するといっても、そのスペースは限られる。父が第一医院という名前で自宅開業していたのはかなり昔で、80歳代後半に細々と続けていた診療所を廃業し、書斎として使っていた部分がその候補だった。父が亡くなってからは私のwalking machineを置いてexercise roomとして使っていた場所だ。みかみビルでの診療内容をそのまま移すことは不可能で、1/5になるそのスペースを何とかして有効活用しなければならない。いろいろと頭の中でイメージを巡らせ、このイラストを描いたのが6月23日だった。

   ここにあるように、曲線を組み合わせるというコンセプトが最初から明確になっている。狭い空間を直線で分けるとますますその狭さが強調されると考えたのだ。曲線には人の質量を吸収する効果があり、出っ張りとして認識されにくいので、感覚的にゆとりのある空間になるだろうというのが私の考えだった。その後建築する上での制限があるために、スペース処理よりも視覚的効果を狙った色彩処理や間接照明を多用したが、ドーム天井やRドアなどにその特徴を残した。



   以下が、9月1日の展開図だが、かなり現在のクリニックの形が見えて来ている。自宅の設計図の上にPower pointで書き加えたものだが、待合室をポーチ側にのばし、診察室を待合室側に拡げた。少しでもスペースを有効に使いたいためだ。しかし、診察ベッドを従来のものを想定しているのでまだ狭い感じは否めない。トイレもこのスペースをどうにかしないといけない、と頭を悩ませていた頃だ。



省スペースイメージを現実のものにする


   昨年の夏は思いの外暑かった。建築関係の情報収集に出ていた時に、久しぶりにiPhoneが過熱のためにalertが出て動かなくなったのには驚いた。あちこち見て歩きたいと思ってはいたが。新型コロナウィルス感染予防対策のために、どこのショールームも予約制で人数制限がされていた。新クリニックで使う収納家具やトイレ、壁紙や床材を自分で選ぶのに、この制限は結構厳しかった。そんな中にあっても、浦安で行われた家具フェアに行き、TOTOのショールームにも足を運んだ。スマホアプリの中に「カンペ」というメモ書きが出来る便利なツールがあるので、それを活用したり、写真のマークアップ機能を使ってリフォームのイメージを描きながら、建築・施工に関する要望を伝えた。



 トイレはショールームで見たものをネットで検索して詳細を確認し、工務店の社長にお願いして取り寄せてもらった。間接照明と壁紙で、うまくスペース感を出すことが出来たように思う。



   以前書いたように、Ollie chairはこの狭いスペースを有効活用するにはうってつけの椅子だ。実際に待合室で使ってみると、その良さがはっきりと分かった。スタッフも、最初は畳まれた椅子を展開し、しまう時に椅子の後ろにあるシートを引いて畳むのにおっかなびっくりだったが、今ではもう慣れた手つきでサッと操作できるようになった。床を大理石調にしたので汚れが目立つかもしれないと思ったが、椅子を畳むと思った以上に広いスペースが確保されていて、終業時のモップがけも楽にできる。やはりこの折り畳み椅子は優れものだと改めて感心する。



   診察室には、タカラベルモントの新しい油圧式椅子型診察台が入った。これがとても良い。非常にコンパクトで、診察室でのspace savingに大きく寄与した。患者さんが診察室に入って来てこの椅子に座ってもらうのだが、「この椅子、動かないんですね」と少しおどろく。血圧を測って診察した後に、お年寄りにはこの椅子をぐるっと回してドアの方に向けてあげる。「便利ですね」と感心する。次の患者さんは若い人で、「お腹をこわしていて、ここが痛いんです」と上腹部を指す。「それでは椅子が倒れますから、そのままもたれていて下さい」といって、電動の「AUTOベッド」ボタンを押す。「あれ、このまま倒れるんですね、靴は?」「そのままで結構です」とベッドになった椅子の上で腹部の診察をする。次の若い女性はめまいが主訴だ。この時も、椅子を寝かせてベッドにしてFrenzel眼鏡を着ける。頭の部分の支えるクッションを外すことが出来るので、そのまま懸垂頭位眼振を調べられる。次の患者は採血が必要な80代の女性。椅子を回して看護師が繃帯交換車(繃交車)を椅子の近くまで寄せて採血。静脈注射が必要なら、同じように繃交車を使って注射をする。なんと、みかみビルのクリニックでは処置室に移動してやっていた事が、その場で出来てしまう。驚きの省スペーステクニックだ。


(ご本人の承諾を得て撮影)


   これと同じく、心電図も、超音波エコーも出来るのだ。もうすでに、世田谷区の健診、検診を受注して区民を受け入れている。レントゲン装置はスペースの関係で捨てて来たから、肺がん検診は受けられないが、大腸癌検診、乳がん検診、その他前立せん癌検診、胃がんリスク検診(ABC検診)などは問題なく受けられる。

   もちろん、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、麻疹・風疹ワクチン、水痘ウィルスワクチンなど、一般のクリニックで可能な検査、診療は今までしていた通りに行う事ができるのだ。2月中旬になると、新しいクリニックになって2ヶ月が過ぎることになる。

   実は、この数ヶ月の廃業・開業に伴う引っ越しや各種申請書類の作成・提出、そして新クリニックの建築、準備、資金調達、新しい環境での患者さんへの対応、説明、お詫び、など、多くのプレッシャーの中で、今までの日常生活が出来ていなかった。朝のルティーン、コーヒーを飲んでZIPを眺め、スッキリの時刻表示で家内を急かせて家を出る、おはよう、とスタッフに声をかけ、PCの電源を入れる。そんな日常がなくなっていた。睡眠は短く、身体は常に重く、節々は痛く、月に一回は行っていた好きなワインを買いに行くこともできなかった。みかみビルにいた時には、天気の良いお昼に近くの遊歩道を歩いて花の写真を撮るのが日課だったが、それも出来なくなった。月に何回かは愛車のバイク、ヤマハDS400に乗ってshort touringに行くのが趣味だったが、そんな気分も時間もなくなっていた。

   しかし、今、新クリニックが始まって約1ヶ月、新しい日常が始まった。毎日のルティーンが復活し、通勤距離は0mだが、待合室のBOSEのスピーカーにBEEGIE ADAIRの素敵なピアノ演奏をBGMとして流すために、iPhoneのBluetoothのスイッチを入れる。「おはよう」とクリニックに入ってスタッフに挨拶して診察室の椅子に座り、PCのMail boxを開けて、電子カルテの診察待ちリストを見る。そして、「○○さんどうぞ」とインターホンで呼び出す。
そう、これが私のNew normal lifeの始まりだ。

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