「医師として」メインタイトル
前回のあらすじ
温和そうな先生は、救命救急センターを持つ病院の麻酔科部長だった。
自らの技術と経験にプライドを持つ先生に提案したのは、高度救命救急センターを有する地域の救急基幹病院。
病院側が求める人物像とも合致し、院長面接では終始順調そのものだったが…
 

第1話
「現役医師」としてのこだわり
(後編)

 三 予期せぬ事態
予期せぬ事態
 最初の顔合わせが無事に終わると、交渉は勤務条件等の第二段階へと進みます。すべては順調と思われました。

 ところが…。
 二度目の幹部打ち合わせと手術見学の時、激震が襲いました。原因は意見の対立です。
 病院長は、麻酔科のみならず病院全体の将来像について確固たる構想をお持ちです。また先生ご自身も、これまでの来歴や実績またご経験から、麻酔科のあるべき姿について頑とした信念をお持ちです。
 今後の人材確保や指導育成という、麻酔科の組織形成に関する根幹部分において、両者の意見は真っ向からぶつかりました。
 あらためていうまでもなく、医師とは究極の職人です。譲れない気質を持った職人同士が真剣に対峙する時、このような衝突は避けようがないのかも知れません。

 「今回の話はなかったことにする!」

 病院長からの衝撃的な電話連絡に驚愕しつつも、私は両者の思いが一致するポイントはきっとある、という思いを捨てきれませんでした。なぜならどちらの先生も、前向きに建設的な意見をぶつけ合ったゆえの衝突だったからです。私は祈るような思いで、「失礼致します」と静かに電話を切ったのでした。
 
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