第十話
元気なうちは働きたい。90歳の決意
(後編)
三 元気なうちは働きたい
A先生とは、2年程前に今回のように介護老人保健施設の急募案件があった際に無理を聞いていただいたことがありました。その内容というのが、この時は次の施設長が決定していたのですが、その施設長が勤務できるのが半年先ということで、この期間を埋める限定勤務ということもあり、当時、米寿を迎えられていたA先生は心よく引き受けて頂いたというものでした。
A先生はお人柄も良く、オンコール対応も厭わず、看護師などのスタッフとも良好な関係を構築され、限定勤務が終了した後も、週1回でも継続してくれないかと懇願された程の医師でした。この時先生は、自分も高齢なので、自宅でサツマイモでも育ててゆっくりと過ごすということで、継続のお仕事はお断りになっておりました。
そのようなA先生のお気持ちを知りながら、私は意を決しA先生に電話を入れ、先生のご自宅近辺にてご面談をしていただくことになりました。会話の中でA先生は「自宅にいてもサツマイモを収穫したところで差し上げる人も、趣味が合う仲間もいない。やっぱり元気なうちは働きたい」とのご意向でした。
四 オンコールから看取りまで
早速、求人先の介護老人保健施設にA先生のことを匿名で打診をしたところ、当初は年齢の面でかなり懸念されていましたが、急を要する現状を鑑みた上で、施設でのご面談、ご見学を設定していただくことになりました。
面談当日、A先生のかくしゃくとされておりましたが謙虚な受け応えが、先方様のお気に召し、即採用となりました。ご自宅から、勤務先まで公共交通機関利用で約1時間かかり、最寄駅より徒歩で20分くらいのアクセスのため、施設側からの自動車での通勤送迎の申し出に対し、健康のために公共交通機関で通勤すると心強いお答えをされました。
ご入職をしていただいてから一ヶ月が過ぎようとしていた頃に総務部長様にご近況伺いのお電話を差し上げたところ、件数は少ないがオンコール対応もしていただき、非常に稀ではありましたが、入居者の方の看取り対応にも時間外にタクシーで駆けつけていただいたと非常にお喜びでございました。
6月下旬にご入職され、梅雨の時期も、現在の炎天下の日も週4日勤務ではありますが、介護老人保健施設に入居されているお年寄りの方々のために黙々とお仕事をされているA先生のお仕事ぶりには頭が下がる思いでございます。