「医師として」 - 80歳　医師の仕事はライフワーク（前）

　数日後、入職の手続きを進めていた私の元にT先生から思いもよらない連絡が入りました。
T先生が仰るには、車での通勤距離が長い事をご家族が心配され、万が一のことがあってはいけない為、近隣もしくは電車通勤が可能な場所でないとダメと反対を受けてしまったとのことでした。
自身を必要として頂き、一度受けた話をお断りするのは本当に忍びないが、何とか理解してほしいと懇願され、進んでいた話は白紙に戻すことになりました。

　この一件を通して、私はT先生の口から出る希望条件のみを信じて求人を探していた自分が浅はかだったと痛感し、恥ずかしくなりました。T先生の潜在ニーズ、ご家族からの意見など、もっと深く考え聞き出す事が出来ていなかった為、結果的にT先生にも老健施設にも迷惑をかけることになってしまったのだと、猛省しました。
しかしながら、それと同時にT先生の今回の転職における1番のプライオリティをようやく掴む事がでた様にも感じ、私はすぐに地図と公共交通機関の路線図を広げ、通勤可能なエリアの求人を探し始めました。

　ただ、求人は簡単には見つからず、振り出しに戻ったかの様に打診しては断られる日々が続いていましたが、「絶対に諦めない」そんな思いで日々掘り起こしにあたっていました。 通勤可能なエリアはあらかた掘り起こし尽くした、そんなある日、T先生がお住まいの隣町の老健施設から医師募集の連絡が入ったのです。
これは天命だと思い、直ぐにT先生に求人の提案をさせて頂いたところ、次に提案頂いた時は入職させて頂くと決めていましたとの言葉を頂戴し、早々に面接設定をしました。

　面接は、T先生のご経歴の話で多いに盛り上がり、その場で双方合意の上、翌週からの勤務開始で纏まり、とんとん拍子での契約締結となりました。

　今回の案件で、人の気持ちに寄り添い潜在ニーズを引き出す大切さ、決して諦める事なく強い気持ちで仕事を行う事で、より多くの人の笑顔を提供出来る仕事である事、の2点を再認識させて頂きました。

　T先生の今後の更なるご活躍を心よりお祈り申し上げております。