笑顔の行方(上)
2007年06月15日 コンサルタントK
A先生は、40歳代前半のドクター。北陸地方の国立大学を卒業の後、出身大学の消化器内科の医局に入局し、大学附属病院や救急病院で内視鏡のスキルをひたすら磨いてきたという。
初めてお会いしたのは3年前で、その時はアルバイトの紹介をさせて頂いた。
当時は、北陸地方で有名な救急病院に勤務し、忙しいながらも非常に充実していると話されていた。その時の印象は、笑顔の絶えない先生。こんなに笑顔の絶えない先生は、今までお会いしたことがなかった為、すごく記憶に残っていた。
ある日、A先生から電話がかかってきた。どうしても会って相談したいとの事で、すぐに北陸の主要駅まで伺うことにした。
久しぶりにA先生とお会いすると、憔悴しきった表情をされていた。詳しく聞いていくと、今はある民間病院に医局派遣で勤務しているとの事で、昨今の医師不足の影響もあり外科の先生が不在で、ご専門である消化器科の下部の内視鏡検査は、かなりリスキーとのことだった。さらに、毎日の残業は当たり前。外来も午後の2時までおしてしまうことが常態化してしまっており、外来が終わった後も直ぐに病棟回診の為、昼食も取れないほどの毎日を過ごしているとの事。
「仕事が忙しすぎて医療事故を起こしそうだ・・」と、疲れきったように言葉を吐き出された。初めてお会いしたときの笑顔は、全くなかったのである。
あるとき動悸がするというご高齢の患者さんが、診察を受けに来た。息切れや発熱がないし、心電図もST異常が無いということで“心房細動”と診断、薬を処方して帰ってもらったが、その翌日に穿孔性腹膜炎で緊急手術となってしまった。幸い予後は良好。家族とのトラブルは無かったとの事だった。
原因は、その日患者さんが立て込んでおり、苦手な問診をおざなりにしてしまったA先生にあった。当然、上司からは人格否定までの厳しい叱責を受けたとのこと。それをきっかけに一念発起、患者さんから話しかけられるように話題づくりを勉強したり、スタッフと飲みに行って本音をぶつけ合ったり努力されたようだ。
“それからは患者さんに向き合う事が出来るようになりました。病気を診るのではなく、患者さんを診れるようになったんです。今にして思えば良い勉強になりましたけどね。”と、少し昔を思い出して表情も明るくなられたが、“でも今の病院では患者さんと接する時間もろくに取れなくて・・・”と、結局肩を落とされてしまった。
『先生、転職を考えましょう!!』