理想と現実の狭間で(上)
2008年08月15日 コンサルタントK
T先生からのエントリーを頂いたのは、新緑の鮮やかな5月の初旬であった。早速、私は電話で面談の約束を頂いた。
エントリー頂いたプロフィールを確認すると、年齢は38歳、九州の国立大学を卒 業後、大学病院で臨床経験を積まれている。現在は医局を離れ、民間病院で小児科医として勤務されており、今年の10月を目途に転職をお考えとの事だった。
それから数日後、T先生との初対面を心待ちにしていた私は、15分前に面談場所である喫茶店に着いた。しかし、約束時間が15分過ぎてもT先生は現れない。30分を過ぎた頃、携帯が鳴った。T先生からである。「すいません。急患が入り、あと30~40分遅れそうです。」との事。私は、「急患でしたら止む終えないですよね。お気を付けていらして下さい。」とお答えし、私がT先生と初めてお会いしたのは、約束時間から1時間30分過ぎた頃だった。
喫茶店に現れたT先生は、とても恐縮された様子で「大変申し訳ございませんでした。しかし、これが私の実情です。友人と約束しても、時間を守れない事が多く、病院と自宅の往復で、未だに独身です。当直は月に9~0回、休日も殆ど無く働きづめで、プライベートの時間なんてゼロに近いんです。子供が好きで、小児科医になりましたが、私ももうすぐ40歳です、体力的にもそろそろ限界ですし、早く結婚して幸せな家庭を築きたいんです。」と現在の不満をおっしゃった。
T先生が現在勤務されている病院は、地域の中心的役割を果たし、一次から三次医療までを担う救急病院である。近くには新興住宅地があり、外来患者も非常に多く、多忙を極める病院である。
時間の経過と共に、少し落ち着きを取り戻されたT先生は、ご自身の転職先に対するご希望を真剣な表情で語り始めた。
「私は、いずれ故郷に戻り、子供の病気を治して、より多くの人々の力になることを通じて地域に貢献するのが夢でした。でも、理想と現実のギャップを感じ、今後は一般内科医として、往診や在宅医療の経験を積みたいと思っております。また、これからは、オン、オフのメリハリを付けプライベートも大切にしたい。」との事で、先生にとっては、病院を変えるという事だけでなく、転科するという重大な決心をされたのである。
私は、「転職先については、お任せ下さい。先生は、現在の職場で悔いが残らないよう最後まで頑張って下さい。」とお伝えし、面談初日を終えた。