ドクター転職ショートストーリー

働く理由(上)

2008年10月15日 コンサルタントY

今回、ご紹介するA先生は、43歳の女性のDrで、国立大学医学部出身の一般内科医だ。
「半年前に母が認知症になり、父が身の回りの世話を続けてきましたが、体力的にも精神的にも負担が大きく、私も実家に戻って手伝うことにしました。14歳の長男と12歳の次男がいますから、当然、家事もあります。できれば当直がなくて、実家から近い病院が希望です。年収は現状維持で構いません。」A先生はこのように転職理由を語った。

9月初旬にA先生と面談した後、医療機関の検索に入った。実家の近くという限られた条件の中で、先生の希望に合う病院が3件見つかったが、私はその中からB病院を紹介した。
私がB病院を選んだ理由は、年収1,200万円、当直なし、日曜祝日を含む4週8休、実家から車で15分ほどのアクセスなども含め、すべての条件がA先生の希望通りだという自信からだ。そして、先生からも「是非、面接と病院見学に伺いたい。」という連絡があり、早速、B病院との面接を設定した。

迎えた面接当日、A先生と私が病院へ伺うと、私たちの到着を事務長がロビーで出迎えて下さった。この姿を見て、医師不足に悩む病院にとって、面接に訪れるドクターへの応対は常に最大限の気を遣う場であると感じた。

事務長は、面接でも会話が途切れそうになると、すぐに話題を出すなど、実に気の利く方だった。そんな事務長が場を仕切りながら、理事長からA先生の経歴や条件面の確認、B病院の現状などが語られた。そして、「ところで…」という具合に、A先生へ転職する理由を尋ねられた。
するとA先生は、私との面談のときと同じことを理事長、事務長へ向けて話し始めた。
「国立大学の医学部を卒業後、内視鏡専門医を目指し、認定病院に勤務していましたが、20代後半に結婚、出産が続いたため、断念しました。そして喘息を患っていた長男が学校を早退しがちで、休むことも多々あり、当時通っていた小学校の近くで当直のない医療機関を自分で探して転職しました。それから次男が生まれた1年半後に夫と死別し、二人の子どもを育てるために必死で働いてきたのです。今回は、夫の死後、いろいろなことでサポートしてくれた認知症の母とその介護にあたる父のために実家に戻りたいと思っています。」
思い描いたドクターにはなれなかったが、今は子どもたち、そして両親のためにという明確な意思を持って働こうとするA先生の優しさ、ホスピタリティ精神が良く表れた言葉だった。理事長も深く共感され「ぜひ一緒に働きましょう」という言葉を最後に面接は終了した。

次へ続く

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