前向きな環境への転職(上)
2009年10月15日 コンサルタントN
5月中旬、弊社のサイトをご覧になり、新規登録されたY先生に早速、電話をするも、残念ながら不通であった。そこで、ご登録のお礼をメールで申し上げ、その日は帰路についた。
翌日、改めて電話をしたが、ここでもまた留守番電話になってしまった。返信のメールもなく、タイミングの悪さを感じながら、他の業務にあたっていた夕刻頃、Y先生から折り返しの電話が入った。
「メールまでいただいていたのに、返事遅くなってすみません」
そのお声は穏やかで、落ち着いた雰囲気を感じさせた。時折、笑い話も交えられたが、謙虚な姿勢の中にも、これまでのご経験からくる自信や自負も感じられた。初めての電話という緊張感もなく、私も数分で打ち解けることができた。
Y先生は産婦人科を専門とされ、非常に豊富な経験をお持ちである。北陸地方にお住まいで、これまで多くの分娩に立ち会われ、地元では良い意味で顔が広いとのことだった。
先生への理解を深めるためにも、これまでのエピソードもじっくり伺ったところ、「街中で声を掛けられることも珍しくないです。『Y先生、今はどちらの病院におられるのですか?うちの娘も結婚しましたから、また先生お願いしますね』などと、言われたりします。本当に有り難い話です」とおっしゃった。
Y先生のお人柄はもちろんのこと、仕事に対する姿勢など全てが凝縮されているような気がした。
今回、登録をされた経緯は、今の病院での勤務が長くなっているので、気分転換や自己研鑚の意味も兼ねて、他院で週1回の非常勤勤務をしたいという希望からであった。また、興味や関心が高い更年期外来を担いたいともおっしゃった。
自己研鑽はさておき、ここで私が気になったのは「気分転換」という言葉だった。穿った見方か、極端な考えかもしれないが、現職に100%の満足をしている場合にはなかなか出てこない言葉だと思ったのである。
「自己研鑽、素晴らしいですね。私も先生を見習わないといけません」、「気分転換とおっしゃいましたが、常勤先の勤務状況はいかがですか?」と伺った。
すると、先生の声が少しだけトーンダウンした。詳細は伺えなかったが、産婦人科を取り巻く昨今の状況からか、勤務先でも次第に縮小傾向にあるようで、「よい環境とは言えないですね」とのことだった。気掛かりではあったが、電話も長くなってきたこともあり、ここは一旦置き、改めて御礼を申し上げて、受話器を置いた。
翌日、2件の非常勤求人をY先生へご案内した。いずれも更年期外来の求人である。Y先生は勤務時間や通勤距離などを考慮された上で、ご案内したうちのH病院に興味をお持ちになった。
H病院は約300床の規模で、Y先生の現職に対する若干の懸念材料である縮小傾向というのが全くなく、業務量の関係から勤務中の産婦人科医の先生方に疲弊感も見えるという。それを少しでも解消すべく、非常勤医師を採用したいとのことだった。
そこで、H病院へ早速連絡をし、Y先生をご紹介した。週1回の非常勤勤務とは言え、病院側にとっては大切な更年期外来である。経歴書だけでは伝わらないお人柄も的確に伝えたいので、前日の電話で伺ったエピソードを中心に、私なりにY先生のお人柄を事務長へ伝えた。
「いい先生ですね。なかなかそこまで言ってもらえることはないと思います」
「そうですよね。これは実際のエピソードです。是非、直接、お会いいただけませんか?」
「おっしゃる通りですね。では、面談の日時をいつにしましょうか」
Y先生の希望が更年期外来のみという点が懸念材料ではあったが、お人柄に関心を持っていただいたことで、面談の運びとなった。Y先生からは事前に面談可能な日時を複数いただいていたので、面談日時をその場で決定した。
面談当日、Y先生から「今から行ってきますので」という電話が入った。ここまで丁寧に連絡を下さったことに感謝を申し上げ、「今日が良い出逢いになれば幸いです」とお伝えし、電話を切った。
しばらくして、「面談、そろそろ終わったかな…」と思っていた頃、Y先生から電話が入った。日程調整ができず、同席をしていないだけにその場の流れが把握できておらず、私としてはいくばくかの不安があった。しかし、Y先生の第一声を聞き、その不安はなくなった。
「行く前におっしゃっていましたが、今日は良い出逢いでした。再来週から勤務することになりました。ありがとうございます」
その電話を切った直後、H病院の事務長へ御礼を兼ねて、連絡をした。
「これまでのご経験もさることながら、お人柄の素晴らしい先生です。事前に聞いていたエピソードも大変参考になりました」
院長も大変好印象を持っていただいたようで、私がその場に居合わせることができなかったことを残念に思った。具体的な諸条件の再確認をし終えたとき、事務長が「Y先生、常勤で来ていただければ、大変ありがたいのですが…」とおっしゃった。念のために確認したが、それは事務長の意見でもあり、院長先生の意見でもあるとのことだった。