ドクター転職ショートストーリー

期待されて・・・(下)

2010年9月1日 コンサルタントI

実は、F先生とお会いする前日、A病院へ足を運び、充足状況を伺っていた。A病院はF先生のご自宅から車で30分以内の場所にあり、病床数は200床以下である。常勤医師が7名おり、女性医師も2名いる。院外に託児所もあり、医師、看護師、勤務している従業員の子どもさんを預かっている。院内の雰囲気からも働きやすい病院だと判断できた。A病院の事務長にF先生の希望条件を伝え、概ね業務内容については了解をもらっていた。しかし、採用を決定するA病院院長先生の了承をもらったわけではなかったので一抹の不安はのこった。

急ぐ必要性がある為、私はA病院以外も候補として考えていたが、実際に見て感じたA病院の雰囲気の良さから、ここしかないと確信し、「F先生、A病院しかございません」と詳細や業務内容を説明しはじめたところ、それまで沈んだ表情のF先生が「面接に行ってみたい」と言われた。

F先生が若い頃、大学の医局員時代に当直で何度かA病院で仕事した経験があり、病院の詳細については御存じであった。「では、早速A病院へ連絡して日程調整を致しますので、先生のスケジュールを教えて頂けますか」と尋ねると、「では、来週面接に伺う時間を作ります」とF先生は答えてくれたが、「アルバイトをしていた頃より随分時間も経っています、自分が知っているころのA病院であれば申し分ないですが」とF先生も若干不安がある様子であった。

面接当日、待ち合わせ場所にF先生が立っていた。先日お会いしたときの表情とは違い、何か清々しさを感じた。ご挨拶を済ませ、院内に入る前に「面接の際、病院側からのご質問があると思いますので緊張せず、楽になさって普段通りのF先生でお話して下さい」と伝え、応接室へ向かった。まず院長先生より経営方針や条件などのお話しがあった。改まった面接は初めての経験ということで、F先生は少し緊張気味だったが、時間が経つにつれ、会話が弾み始めた。A病院の院長先生が、F先生に現状の勤務内容を詳しく聞かれた後「F先生のご経験であれば、たくさんの患者を診ていただくことよりも、今いる若い常勤の先生のマネジメントや指導の部分を、是非一緒に手伝っていただきたい」と言われた。F先生は思いもかけぬ様子で「今までずっと一人の医師として、患者さんの面倒しか診てきませんでした。それでも大丈夫でしょうか?」と少し不安な様子が伺えるものの声は何時になく力強かった。その後も会話は弾み、終始なごやかな雰囲気で面接は終わった。最後に院長先生が「F先生の手腕を期待しています。是非、先生の得意分野も活かして頂き、協力してやっていきましょう」とおっしゃった。F先生も「本日は、ありがとうございました」と一礼され、部屋を退出した。勤務内容として週4.5日、当直なし、外来・病棟管理、年俸は先生の希望よりは少ない1300万円が提示された。

現勤務先とは異なり、期待されている仕事内容に新たな要素が加わったことで、F先生の期待と不安が入り混じった様子が窺える。

正面玄関でF先生から「A病院の方針に共感しました。ただ、院長先生の期待にこたえられるか不安もあります。少しだけ返答するのは待ってください」と即答は避けられた。F先生と別れた後、私は不安が的中したのではないかと面接の詳細をふり返ってみた。F先生から即答を得られなかった要素として、具体的な役職も無しにマネジメント部分を期待されたことに対して不安があるかもしれないし、年俸に対する不満かもしれない。現在の勤務先でも期待に答えようと頑張った結果体調を崩された経緯もある。事前に訪問した際に院長先生に直接話ができていればと少し後悔した。

翌日、F先生より連絡をいただいた。F先生は「自宅からも近いですし、院長先生の期待にこたえられるよう頑張りたい気持ちはあります。もう少し仕事内容や負うべき責任を明確にしていただきたい。その為の交渉を宜しくお願いします」と言葉を頂いた。 早速、私はA病院に連絡を取り、院長先生に直接F先生の意向を伝えたところ、「では、F先生には副部長職についていただいたうえでゆったりと勤務してくださいとお伝えください」とあっさり言われた。どうやら先日面接の際に役職のこと等を伝え忘れていたのを気付いた様子であった。

3ヵ月後、F先生は晴れてA病院へ入職され、様子を伺いに病院へ訪問した。「だいぶ慣れてきて、自分の時間に余裕ができました。今度バイトでも紹介して下さいね」と言われた。初めてお会いした日の沈んだ表情はどこにもなく、水を得た魚のように、生き生きとした表情で勤務されている先生を見て、F先生が望まれる結果になったのだと確信ができた。

期待されて入職するということは、誰しも大変嬉しいことだ。冷静に考えるとF先生が入職される前から、A病院はF先生を探し、見えない糸で結ばれていたのかもしれない。コンサルタントとして、こういった糸と糸とを結びつけることこそが使命であり、やりがいであることを再確信した。先生方、医療機関、そして社会から求められるコンサルタントに一歩近づけた気がした。

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