涙(下)
2010年12月1日 コンサルタントS
理事長に一喝されY病院を後にした。少し落ち着きを取り戻したH先生が「大変申し訳ありませんでした。こんな事になって自分としても情けない。再度連絡します」そう言い残し、H先生は足早に帰路につかれた。H先生を見送った後、Y病院に戻った。
理事長の「非常に真面目で正直な先生である事は感じております。しかし、どう判断して良いのか困惑しております」との言葉に対し、私は一つ提案を投げかけた。「H先生に数日間の勤務をこなして頂き、様子を見ていただけませんか」これには理事長は勿論、院長も副院長も賛同された。ただし、通常より長い二週間の条件付きである。理事長に感謝しつつも、私はY病院を出た瞬間、H先生へ連絡を取った。「トライアル勤務を通じて採用の判断をして頂くことになりました。挽回のチャンスです」と、Y病院側の気持ちを伝えた。「尽力頂き有難うございます。全力で勤務してきます」H先生より力強い返事を頂いた。
トライアル勤務当日、H先生が到着される前に今回のお礼とH先生の意気込みをお伝えする為、理事長にお会いした。「本来のH先生の力を発揮して頂く事が目的ですから」と理事長より嬉しいお言葉を頂いた。トライアル開始から4日経ち、H先生に対する病院側の評価は上昇の一途を辿っていたようである。勤務開始5日目に事務長より「条件面の具体的な話に移りますか」と、早くもH先生の処遇面の提示を受けた。14日目の最終日、再びY病院へ足を運んだ。早速H先生に「如何でしたか?」と声を掛けると、「有難うございました。自分ができる事は全てやりましたよ。断られても悔いは一切ありません」H先生の清々しい顔がそこにあった。私は「H先生にはお伝えしておりませんでしたが、実は二週間のご勤務中に、入職条件の交渉を並行して進めておりました。契約書は完成しております。後はH先生から、内容を確認して頂き、署名捺印をして頂ければ入職成立です」と契約書を差し出した。条件は週5日で1,550万円、当直なし、娘さんの容体が急変した場合の受け入れ体制についても院長先生の了承を事前に得られた。H先生の顔を見上げると、安堵の表情を浮かべた先生の目から、また涙がこぼれた。
駆け引きも時に必要だが、コンサルタントとして正直に全てを伝える事が今回のキーポイントであり、それをH先生は私に対して試していたのである。今回の事を教訓に今後も先生方と正面から向き合って行きたいと思う。
完