ドクター転職ショートストーリー

不思議なご縁(上)

2011年5月15日 コンサルタントO

S先生からの初めてのコンタクトは「e-doctor」のホームページから、非公開求人への問い合わせだった。産婦人科病院でのオペ麻酔求人。その求人は通常のオペ麻酔求人よりも給与が低めである。なぜ先生がこの求人に問い合わせをしたのだろう?家が近いからかな?勤務日数が相談できるところが良かったのかな?でも急募の案件だったから、病院は喜ぶだろうな…そんな事を考えながら、私はS先生に病院名や勤務の詳細を伝えるメールの作成に取りかかった。

翌日届いたS先生からのメールは、いくつかの質問と「週4日の勤務を希望します」という内容だった。私は早速、病院に電話をした。こちらの病院の事務長は女性で、とても明るい方である。「麻酔科の先生から問い合わせがありましたよ」私の声もウキウキしていたが、「本当に?」先方はもっと明るい声だったが、「はい。でも週4日の勤務をご希望なのです。検討して頂けますか?」と言った途端、小さなため息が聞こえた。「せめて、もう半日来てもらえないかしら?32時間ご勤務頂かないと常勤扱いにできないし……」折角頂いた問い合わせなのに、うまくいかないな、と私は残念に思ったが、このまま諦めるのは勿体ないと思った。「是非検討してください」と、S先生のご経歴を個人が特定できないかたちでお伝えした。40代後半の女性医師、オペ麻酔に加え、緩和医療もされている旨をお伝えすると、「とりあえず院長先生に相談してみます」と言って頂けた。しかし、翌日にもう一度電話をすると「もう少し待って欲しい」という回答だった。今回の産婦人科病院が難しければ、新しい案件をご案内しなければいけない。私はS先生に産婦人科病院の状況を正直にお話し、先ずは当社との面談の時間を頂けるようお願いした。S先生は快諾してくださった。

ショートカットに柔らかくパーマをかけられた先生は、とても優しそうな印象だった。S先生のご要望をお伺いすると、先生には中学生の女の子と小学生の男の子、ふたりのお子さんがいらっしゃるとのことで、お子さんとの時間を作るために、できるだけ家から近く、勤務日数が相談できて、そしてスキルを維持できる病院を希望されているという。給与よりもそれらを優先させる為に転職したい、というお考えだった。1時間程お話させて頂いたが、受験等も経験される年齢のお子さんの子育てというのは本当に大変そうで、現在の勤務との両立に限界を感じてらっしゃるという印象を受けた。

「あそこの病院だったら希望にぴったりだったのに、残念だわ」先生はそう言いながら、麻酔科求人であれば勤務内容や給与はこだわらないので、希望に合う求人があれば連絡して欲しい、とおっしゃった。

その後、私は複数の病院に電話をしたが、週4日で検討して頂ける病院はなかなか見つからなかった。たまに、「週4日でもぜひ来て頂きたい」という病院もあったが、S先生のご自宅に近いとは言い難いものだった。念のためS先生に相談をしてみたが、やはり通勤時間を考慮すると難しいという返答だった。問い合わせのあった産婦人科病院からは何の連絡もない。私はS先生に「週4.5日で通勤時間の短い病院」もしくは「週4日で通勤時間が希望よりも多くかかる病院」どちらかで検討頂けないかお願いしてみようとも考えたが、やはり先生のご希望に近い求人をご案内したい、そう考え、私は産婦人科病院に電話をして事務長に直接お会いすることにした。

「先日お話しました麻酔科のドクターの件ですが」私が切り出すと、事務長さんは少し困った顔をされながら「お返事が遅くなってごめんなさいね」とおっしゃった。「いえ、病院様のご事情もいろいろあるとは思います」そう前置きした後、「実はそのドクターに直接お会いしましたので、そのことだけでもお伝えしたいと思い、お伺いいたしました」そうお話すると、事務長は「どうだったの?」と私の方に体を傾けた。1日8時間勤務にすれば、週4日でも32時間の常勤規定を満たせる点、私がS先生とお会いした印象、現在の家庭の状況、S先生が今後どのように医療と係わっていきたいかという思いをお話した。「スキルもお持ちの先生ですし、ご無理を申し上げますが、ご検討の程、宜しくお願いします」私がそう言うと事務長は苦笑いだった。「出産経験のあるドクターだと妊婦さんの気持ちも分かるから、本当は助かるのよ。もう一度、院長先生に相談してみるわ」そう言ってくださった。

私は、事務長の最後の一言を、この時は特に気にも留めず聞いていたけれど、1年後またその言葉を思い出すことになるのである。

次へ続く

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