医師であり続ける事(上)
2011年11月15日 コンサルタントY
今年の夏は例年になく暑い日が続き、その上、福島原発事故の影響により節電を強いられた事からも、ある意味特別な思いで日々の業務に取組んでいた。
そんな中、転職を希望されるM先生から、紹介サポートの依頼メールが送られてきた。
M先生は70歳の精神科医。私はこれまで、比較的自分と同世代の先生方の転職をサポートさせて頂いてきたので、世代間の共通の話題や昔話を交えながらコンサルティング業務を行ってきたが、今回は自分の父親と同じ年の70歳である為、どのように接しながら転職のサポートをするべきか・・・M先生のイメージを描きながら、ご自宅に電話を架ける事にした。
20秒近く呼び出しコールを鳴らしたが、留守番電話へ切り替わる様子もなかったので、一旦受話器を置こうとした。その瞬間、「はい、Mです」と女性が電話に出られ、私は連絡した経緯をお伝えし、すぐさまM先生に取り次いで頂いた。M先生へ改めて当社のサービス内容を説明し、2日後の夜、M先生のご自宅で面談させて頂く事になった。
通常は、事前にご登録に至った経緯や、これまでのご経歴・ご希望など、詳しくヒアリングを行い、先生にとって最適な勤務内容の仮説を立てながら、幾つか具体的な求人案件を提案させて頂いている。
しかし、M先生がご高齢で、選考して頂ける病院を見つけられるだろうかと不安に思い、今回はM先生との面談を済ませてから、提案する病院を探す事にした。
2日後、M先生のご自宅に到着し、玄関でインターホンを鳴らした。
「お入り下さい」と女性の声が聞こえ、中に入ったところ、30代半ばの女性と、見た目にはとても70歳には見えないきりっとしたM先生が立っていた。 M先生と簡単なご挨拶を交わした後、M先生と同じ精神科医の娘さんを紹介して頂いた。すると、娘さんからは「70歳でも採用してくれる病院はございますか?」と声をかけられ、少し場の空気が重たい様相となってしまった。 M先生も年齢的な問題を自覚されていたが、「少しでも長く患者を診続けたい、少しでも患者や後進の為に役立ちたい」と、こちらが圧倒される位に熱く語られた。
M先生は昨年、長年開業していた病院を売却されていた。その理由は、娘さんを後継者にする事を楽しみにされていたが、院長職に就く事への重責に耐えられないと、娘さんは後を継ぐ事を拒み、M先生はしかたなく病院を売却されたとの事だった。更に時悪く、M先生の奥様が他界され、意気消沈した日が続いていた為、その様子を見ていた娘さんから「少しでも昔のように生き生きとした父親の姿を見たい」と言われ、体への負担をかけない事を条件に、ご登録に至ったとのことだった。そして、M先生が以前開業していた病院で看護師を採用する際に利用していた当社に、連絡されたとの事だった。 その後、M先生の経歴書や医師免許証の写しを受け取り、M先生のご自宅から引き上げた。面談前に私がイメージしていた人物像とは違い、気さくな一面と常に患者と向き合う事を大切にされてきた印象を受けた。
翌日から、M先生の希望に該当する病院を探すため、M先生の概要を説明しながら、求人開拓を行った。M先生のご希望は、週4日勤務、当直なし、ご自宅からの通勤1時間以内、年俸については1,500万円であった。年齢的な問題や病院までの所要時間を除けば、比較的多くの求人案件を紹介できるものの、思いのほか具体的な案件が見つからず時間ばかりが経過してしまった。
M先生と面談をしてから一週間ほど経過したある日、200床規模の精神科病院を2施設運営している医療法人TのS事務長より、ドクター募集の件で相談に乗って欲しいとの連絡を受けた。1施設については、開院して1年ほどしか経過していないものの、比較的立地に恵まれた病院であり、各種精神疾患の症例が急増し、救急対応も断る事なく引き受けている為、手一杯になり、医師の増員を図りたいとの事であった。そこで翌日より詳しい募集要項等を確認する為、病院を訪問する事にした。
私が病院訪問をする際には常に、事前に病院のホームページや当社が保有するデータ等を確認し、特に病院の沿革やY理事長(院長先生)、常勤医の先生方の経歴等を調べている。
医療法人Tは特に印象的で、MRIをはじめ医療機器も最新型を取り入れるなど、積極的に設備投資が行われている。何より、常勤の先生方の年齢が30代半ばと非常に若く、活気があふれる病院だった。そこに、M先生から伺った話を思い出しながら、一縷の望みを描き面談に赴いた。