家族の元へ(下)
2012年2月1日 コンサルタントK
1週間後、A先生へ連絡を入れてみると、年末年始の休暇を利用し帰省され、ご家族と転職の話をされていた。やはりご家族も一緒に暮らす事を望まれており、A先生は「少し前向きに考え始めています。もう少しD病院について詳しい勤務条件や福利厚生面を確認して頂けますか」と話された。しかし続け様に「いざ転職を考え始めると、D病院での勤務は体力的にもつのか、私でお役にたてるのか等、心配が出てきますね」と正直な気持ちを話された。同期の中には、第一線を離れ、療養型の病院や施設で勤務されている先生方もいらっしゃるとの事で、かなり悩まれている様子が伺えた。
翌日、D病院へA先生のご希望を伝え、勤務内容や待遇面について調整して頂けるか検討して頂いた。すると数時間後には「是非お会いし、A先生のお人柄や具体的な業務、今後の呼吸器科における構想などについて話したい」と連絡があり、A先生の希望にあった勤務条件での受け入れを快諾して頂いた。また「帰省をされる日程で都合が合えば、非常勤として外来を診て頂きながら、将来的に常勤での勤務が可能かを判断してほしいとお伝え頂けませんか」と、ぜひA先生に来て欲しいというD病院の気持ちが伝わってきた。 早速、A先生にD病院の意向をお伝えしたところ、A先生の不安要素でもある体力・技術・退職時期について、非常勤での勤務は最善策であり、A先生は大変喜ばれていた。また偶然にも今週末に自宅に帰られるとの事で、その時に面接の時間を頂く事になった。
そして面接当日、A先生は離れて暮らしているご家族の事や、現勤務先での勤務内容、転職に関してはっきりとした返事が出来ない状況を説明された。院長先生から「A先生の経験を活かし、ご勤務頂けると有り難いです」とお話があり、A先生も「一旦非常勤で勤務させて頂けるのであれば大変喜ばしい事です」と話された。その後、自院の現状、将来的な構想を話され、面接は終始和やかな雰囲気で終了した。
面接終了後、A先生の感想をお伺いしたところ「近代的な病院で、設備も整っているし、今後の構想も楽しみだね。どうなるか分からないけど、早々に話を進めて下さい」と笑顔で話されていた。 早速、D病院へ先生の意向を伝え、雇用条件の作成にとりかかった。勤務内容は、先生が帰省される日程に合わせ、午前中の外来を診て頂き、専門疾患の患者さんが来られた場合も対処をして頂くといったものだった。
そして1ヶ月後、いよいよD病院での非常勤勤務が開始した。初日の勤務の感触をお伺いする為A先生へ連絡を入れると「思っていた以上に外来も多く、経験が活かせそうな患者さんも沢山いて、良い感じだったよ。次回の勤務も楽しみにしている」と話された。
勤務開始から3ヶ月が過ぎた頃には、A先生から「何とかやっていけそうですね、D病院へ転職しようと思います。現在の勤務先にはまだ話はしていないが、ある程度条件が決まれば、家族の元に戻りたいと話してみます」と、数ヶ月前とは別人のように生き生きとした声で連絡が入った。
A先生の意向をD病院の事務長に伝え、外来や検査などを主にした業務に従事する事、当直やオンコール対応がない事、週5日勤務、A先生の専門を活かした勤務である事が盛り込まれた条件で、年俸に関してA先生は、最初は下がっても致し方ないですねと話されていたが、最終的には1,800万円の金額を提示して頂いた。
A先生は「ここまで動いてくれたら、後は自分で何とかしないとね」と現在の勤務先へ退職の意向を伝えられると、旧友でもある勤務先の院長・副院長はA先生のご事情をよく理解された様で、退職方向で話がまとまった。それから、契約書や、諸条件の確認など全てが順調に進んでいった。そして、9月の後半、A先生は募る思いと新天地への希望を胸に、長年勤務した勤め先を後にした。
今回、家族と暮らしたい思いと、医師不足が深刻化する勤務先への思いなど、狭間で揺れ動くA先生の気持ちを踏まえて接する事ができ、コンサルタントとして多くのことを学ばせて頂いた。
そして現在、A先生は家族と過ごし、D病院で充実した日々を過ごされている。
完