自分らしい働き方(下)
2012年3月1日 コンサルタントH
9月の下旬、都内にあるB病院から救急部門で常勤医を採用したいと連絡が入った。しかも、救急科の医師ではなく、救急をサポートしてくれる形成外科医を紹介してほしいとのことだった。F先生は救急の経験もある為、私は詳しい話を聞くためにB病院へと出向いた。
担当者によると、B病院は地域の中核病院であるが、現在の救急医療の体制は十分とは言えない。そこで救急部門を強化し、今までよりも幅広い患者層を受け入れたいと考えられていた。そのために救急外傷を診てもらえる形成外科医の存在が不可欠であり「フットワークが軽く、他科とも連携を取りながら対応してくれる方に来てほしい」とのことだった。もちろん一般的な形成外科手術も数多くあるので、経験豊富な医師が望ましい。ただ、B病院もこのような募集をするのは初めてで「担当して欲しい業務が幅広い為、このような業務を希望する医師がいるかわからない」と不安そうに話された。「私は、お一人思い当たる先生がいます」と伝え、勤務内容の詳細をヒヤリングし、その場を後にした。
早速、B病院の求人内容をお伝えする為、F先生に連絡をした。F先生に是非検討して頂きたい求人があることをお伝えすると、とても喜んでくれた。A病院の求人が無くなって、もう転職は難しいのでは、と思い始めていたところだったそうだ。B病院の求人の概要を伝えると、F先生は「是非詳しい話を聞いてみたい」と仰った。F先生はできることなら手術は幅広くやっていきたいという希望があり、B病院の求人はまさにF先生の希望にぴったりだった。
B病院にF先生のお話をさせて頂くと、すぐにでも面接を設定するよう依頼され、その翌々週には、面接が設定された。
面接当日はB病院の院長先生と外科出身の救急部長が同席され、F先生と話が盛り上がった。院長先生は想定している勤務内容について、F先生に経験があるかどうか質問されたが、F先生はすべて経験されていた。また、F先生は自分が入職した後、B病院に対してどのような貢献が出来るかを話された。これには院長先生方も前のめりで話を聞いて下さり、その後は歓談しながら院内を見学し、無事面接は終了した。
私は、両者にとって、良い形で面接が終了したように感じられた。しかし、駅へ向かう途中でF先生に感想を聞いてみると「病院からいろいろと求められることが多くて大変そうですね」と苦笑いをしていた。意外なことにF先生は「年齢のこともありますし、私に務まるでしょうか?」と不安げな表情だった。一方で勤務内容については「全てこれまでやってきた内容だし、B病院での勤務内容はとても面白そうだとも思う」と悩まれている様子だった。
不安を感じながらもF先生はB病院での勤務に強く魅力を感じている、そう感じた私はF先生にお一人で結論を出さず、ご家族や親しい方に相談することをすすめた。以前F先生とお話しした際に、ご家族やF先生をよく知る先輩が、今の美容形成外科としての勤務は「F先生らしくない」と言われ、自分でもそう思ったことが転職を考えたきっかけだとお聞きしたことがあった。きっとF先生をよく知る方が、B病院の勤務がF先生らしいかどうかを教えてくれると思ったからだ。
F先生からの回答を待つ間にB病院からF先生にぜひ来て頂きたいと連絡が入った。週4.5日勤務で年俸1,500万円、ご家族のあるF先生に配慮して当直無しの条件である。現職は週4.5日の勤務に加え、月2回の当直を含めて年俸1,200万円なので、大幅な年俸アップと当直免除の好条件となった。
B病院からの労働条件をF先生にお伝えする為連絡を入れると、こちらから切り出す前にF先生は「いろいろと考えたのですがB病院での勤務を希望したいと思います」とのことだった。改めてB病院からの労働条件をお伝えすると、大幅に上がる年俸はもちろんのこと、当直なしの条件に大変喜んで頂けた。
契約書に捺印後、あとは入職日を待つばかりとなった昨年末、F先生と改めてお話しする機会があった。久しぶりにお会いしたF先生の近況をお聞きした後、最終的にB病院に入職を決意された理由は何だったのか、尋ねてみた。F先生は少し考えた後「いろいろと不安なこともあるのですが、B病院の勤務の内容が自分に合っていると思いました。外傷とか緊急オペとかで走り回っているのが私らしいと思うんですよね。自分なりに頑張ってみます」と仰った。
F先生が自分らしい働き方を見つけられたことは、コンサルタントとして最大の喜びである。
入職日まであとわずか、今後のF先生のご活躍を心から願うばかりである。
完