ドクター転職ショートストーリー

「ひとこと」に込める強い思い(上)

2014年04月01日 コンサルタントM

T病院からの帰路、A先生はにこやかな表情を浮かべながらも、哀愁を漂わせ、「僕も60歳を過ぎたけど、まだ精神科急性期に携わりたいんだ。」と一言、私に言葉をかけられ、その場を立ち去られた。この時の衝撃は今でも忘れられない。コンサルタントとして私は、A先生の希望を理解出来ず、先生から得た情報だけを頼りに、自分の尺度で病院を探していたことに気付かされた。

A先生のご期待に応えるべく、私は更なる熱意を持って求人開拓を行うことにした。行動範囲は自宅より公共交通手段で1時間以内。ご家庭の事情により勤務可能なのは週4日のみ。それに加え、急性期の精神科病院を探すとなると、数が限られる。殆どの病院が週4日という理由で、ことごとく断られる日々が続いた。私は、A先生に申し訳ない気持ちで一杯ながらも進捗を報告する度に、「検討中の病院がまだありますので、任せて下さい!」とご安心頂く様話しながら、悔しさを噛み締めていた。

そんなある日、いつものように電話で進捗状況を先生に報告した際に、「そう言えば、最初に提案してくれたK病院の求人はどうなった?」とのご質問を頂いた。私がこの病院では煙草は吸えない旨お話すると、A先生はあっさりと「タバコ止めるわ」だった。図らずも、当初私がA先生へ第一有力候補の求人として提案したものであり、急性期の病院であった。A先生のお言葉に嬉しく思いながらも、一度は断った医療機関であるため、次の日、祈る思いで求人の空き確認を行った。A先生の転職先はここしかないという強い思いで、院長へ直談判を行い、後日面接にこぎづけた。

K病院の院長は、A先生よりも若く、急性期病院だけあって、勤務しているDrも比較的若い方が多い職場であったが、施設内見学をしている最中のA先生の表情は、T病院の施設見学の時のそれとは明らかに違い、輝いていた。面接後、A先生と面談を行い、入職の意思確認をすると、二つ返事でご承諾頂けた。

そこで私は、一番気になっていたことをA先生に質問した。「本当にタバコを止めるんですか?」と。すると先生は、「病院にいる間は吸わなけりゃいいんだろ?家では勿論吸うけどね」と子どものような満面の笑みで私を見ていた。後日K病院より、A先生に是非ともご入職頂きたいとの吉報が私宛に入った。

入職条件は週4勤務で当直無し。給与は年俸1,200万円で、現職より約100万円近く下がってしまったが、当初のご希望であった精神科急性期医療に携われること、サテライトクリニックが利便性の高い駅近くにあり、以前から長く診ている患者を引き続き診ていける勤務環境であることで、A先生にご満足の頂ける転職結果となった。

今回のコンサルティングは私の至らぬ点もあり、若干遠回りをしてしまいましたが、私の熱意と誠意をご理解して頂いたA先生には心より感謝致します。また、医師の転職において年俸アップを強調される風潮がありますが、今回のように、給与待遇も重要であるが、それ以上に勤務内容が先生のご希望に副うことも大切であると改めて痛感致しました。

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