現場優先(上)
2009年2月15日 コンサルタントI
周囲に気を配りながら、小声で始まったI先生との面談。
「もっと自分の力が発揮できる環境で、自分を必要としてくれる患者様の為に働きたいです」
力強い言葉でI先生は、転職理由を語られた。
I先生は都内の有名私立医大を卒業後、呼吸器内科医として公立病院に勤務。その後、現場第一を優先に取り組んで来られた。
しかし、実際勤務を始めると職位の仕事がどんどん増え、現場で患者様と接することが少なくなってしまった。
それでもI先生は、出来る限り患者様との時間を作る為、職位の仕事は後回しにしてでも患者様と接して来られた。そうすればするほど悪循環から抜け出せなくなり、患者様に接する態度や診察が自分の納得できるものではなくなっていった。
患者様からも「先生は最近とてもお忙しそうですね。体に気をつけて下さいよ」と声を掛けられてしまう始末。
いつか、この状況から脱しなくては・・・と思いつつも、「今の患者様を見捨てるようなことは絶対したくない」「でも自分の中では納得できていない」と逡巡を重ねていた。
I先生はその堂々巡りから抜け出そうと「相談」という形で弊社に登録をされた。
I先生はこれまで、なるべく多くの患者様と接することができる「現場」を優先されてきた。その為、先輩医師や他の医師に「留学をしてみないか?」、「一緒に研究して論文を書かないか?」という誘いを断ってこられた。
「研究や留学がとても大切な事だとは分かっている。医療技術の向上や、手技の継承、新薬開発など、そういう事は得意な人がやればいいと思っている。自分はやっぱり患者様に接していたいし、現場が好きだから」
自分の信念を持ったI先生に、絶対に満足していただける医療機関をご紹介すると心に誓い、別れた。
翌日から、I先生の希望に添える「現場」の仕事を優先出来る医療機関を探したが、思うように見つからなかった。I先生の年齢とスキルであれば医療機関側としては、「診察+α」を求めてしまう為である。
I先生に経過報告をするために、時間を頂いてお会いしに行った。
「先生の年齢とスキルであれば現場だけでなく、指導医としての立場も求められる医療機関がほとんどです。現場優先を考えるのであれば、非常勤で数ヶ所勤務するのは如何でしょうか?」
I先生は「これまで常勤でしか勤務した事がないので・・・。週に1回~2回しか行かない医療機関だと慣れるまでに予想以上に時間が掛かってしまうのではないか。柔軟に対応できるようになるまで自分の事だけで精一杯になるのではないか・・・。固定された場所での勤務しか経験した事がないから正直そういった事が不安になる・・・でもやっぱり現場優先で働こうと思ったら、そうなってしまうのかな・・・」
そうおっしゃった。その時のI先生の曇り顔は今でも忘れることが出来ない。
なんて軽々しいことを言ってしまったのか・・・「現場のみの仕事=非常勤」という安易な考えから発言した事に後悔した。