ドクター転職ショートストーリー

存在意義(上)

2010年2月15日 コンサルタントS

リンクスタッフに入社して1カ月程が過ぎた9月、上司から「そろそろ医師を担当してもらうから」と話があった。それまでは求人を獲得するため医療機関への電話アプローチ、上司や先輩との同行営業などを行っており、医師と接する機会は殆どなかった。それだけに「初めて担当の医師を持つ」という事実は喜びと緊張と不安が入り交じった複雑な感覚であった。期待を胸に私は電話を掛けた。社内では新人の私も、医療機関や医師の前では新人という殻を捨てなければならない。医師も患者さんに対して「新人なので」という言い訳は通じないであろうし、必要としてくれている目の前の人に対し、不安を与えることは絶対にしないであろう。職種や責任の在り方は違うが、取り組む姿勢は同じはずだ。
「はい、Iです」
初めてのコンサルタントはI先生だった。

I先生は30代後半で、もともとは一般外科の先生だったが、一般内科への転科を希望されていた。そのほかの条件として、「ご実家の家業を手伝う必要が出てきたため、B市内限定」「年俸1,200万以上、当直はできれば無いほうが望ましい」「週4日勤務」「公共の交通機関でアクセスの良いところ」「年10日以上の有休確保」「時間外勤務は極力避けたい」などを挙げられた。

家業の手伝いが足かせとなって勤務条件の緩和は望めそうもない。「条件は厳しいですが、宜しくお願いします」とのI先生の言葉に「承知しました、お任せください」と即答した。
確かに条件は厳しかったが、コンサルタントの存在意義を示す絶好の機会である。まずは、B市内で既に良好な関係が構築できている医療機関から交渉を開始した。I先生の希望条件全てをクリアすることは困難であったが、複数クリアした医療機関が見つかれば、I先生に連絡をするという毎日が続いた。

その中で、I先生が最初に興味を持たれた医療機関はがん治療専門クリニックだった。そのクリニックには内科、外科、精神科医師が在籍し、がん患者の終末期医療におけるチーム医療を重視している。I先生はチーム医療に関心を持っておられたこともあり、面接や施設見学の依頼を受けた。
後日、がん治療専門クリニックにて面接が実施されたが、I先生からイメージの相違という理由で数日後にお断りを受けた。しかし私としては残念という気持ちよりも、むしろI先生に対する好感の方が強くなった。温和で、人間的に魅力のある先生だとこれまでも思っていたが、「真っ直ぐで、誠実で、自分の考えをしっかりと持たれている」と、さらに尊敬の念を抱いた。

行動のないところに結果は生まれない。ゆえに重要なのは継続性である。I先生のご希望に沿った案件を紹介するために、医療機関への交渉の日々が続いた。
10月に入ったある日、I先生から連絡が入った。「次週、知人から紹介されたB病院に面接に行きます。条件が揃えば、そこでお世話になるかもしれません」
医療機関への交渉の日々を送っていた私に、思いもかけない言葉が発せられ、思わず固まってしまった。私の対応に不手際があったのか、希望する案件の提供ができない私に対し痺れを切らしたのだろうか。これまでの私の行動を振り返った。I先生は「リンクスタッフさんに登録する前から知人に相談し、B病院の紹介を受けていました。知人からの紹介を断るわけにはいかないので、一度お会いすることになりました」と続けた。

人と人の出会いはタイミングであり、医療機関と医師との結びつきもタイミングの要素が大きい。ゆえにチャンスを活かせなかったという思いにかられた。しかし、幸いにもI先生が知人から紹介されたB病院で面接をする前に、B病院の勤務条件を確認することができた。年俸は1400万、週5日勤務、当直もある(当直手当は年俸に含む)。B病院からの提示条件について、I先生の率直な意見を聞いてみたが、「面接次第ですね」と言葉少なく、私は何か引っかかるものを感じた。

次へ続く

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