ドクター転職ショートストーリー

期待されて・・・(上)

2010年8月15日 コンサルタントI

新緑が目立ち始めてきた4月中旬、以前よりお話をしていたF先生から突然の電話があり、「明日、直接会って話しをしたい」と連絡が入った。先生にどうされたのかと伺ったが、「話は会ってからでお願いします」と言われ、電話を切られた。いつもと違う先生の様子に私は困惑し、一体何があったのだろう・・・と心配になった。F先生は転職について「じっくり考えてから決めたい」とお話しされていたが、この電話をきっかけに転職へ向けて加速していくことになるとは、この時は予想もしていなかった。

F先生は年齢50代後半の男性で、医局を離れ、民間病院で精神科医としてご勤務されている。私は何があったのかと想像を膨らませながら、待ち合わせ場所で先生を待っていた。約束の時間に、電話で感じたイメージ通りの物腰が柔らかな先生が現れた。

席に着き、F先生の沈んだ表情が気になった私は、今回の面談に至った本題でもある「会ってから話しをしたい」との先生から頂いていたお言葉に対し、とっさに質問を投げかけた。「お電話ではじっくり時間をかけて、来年の4月を目途に転職したいということでしたが、如何されたのでしょうか。何か不手際がございましたでしょうか。」
「いや、あなたには不手際どころか、寧ろ良くしてくださっており感謝しています。実は私事で恐縮ですが」と先生の口が重くゆっくりと動き出した。この先に続く言葉は緊急を要するであろうことは容易に想像できた。「先日仕事が終わった後、急に体調が悪くなり、ふと今後のことを考えていたら、受話器を握っていました。前から思っていましたが、なぜ私だけがこんなに仕事をしているのか・・・。今の病院は勤務をして1年弱。最初は外来と病棟管理だけでしたが、病棟の受け持ち患者数増加に加え、常勤医師の退職で、業務は増しました。正直、続けていくのが困難です。院長から頼まれたので、期待されているのだろうと思い、多忙でも業務をこなしていましたが、他の先生方がやらないから私に押し付けてきているのではと感じ始めました。誰よりも早く、1時間半前の朝7時には勤務先に向かい、病棟患者を診ています。時間がいくらあっても足りません。」これからの不安と、これまでの怒りにも近い口調でもあり、しかし非常に疲れた様子でゆっくりと丁寧な口調でもあった。
これまで何度も先生とはお話しさせて頂いていたにも関わらず、初めて聞く口調であった。
コーヒーで喉を潤し、落ち着かれた先生はいつもの優しい語り口で続けられた。

「希望の勤務内容としてゆったりとした勤務先を考えております。これまで休みも取れず、今まで必死に仕事をしてきました。オン・オフのメリハリのある、身体を休める時間が欲しいと考えております。」すぐれない体調が転職へのきっかけになったようだと素直に受け止めることができた。

そのとき既に、私の中でいくつかの病院が頭に浮かんでいた。「急なお願いですから、急いで探さなくてもいいですよ」と先生は優しい口調で私に返してくれたが、先生のご配慮には感謝しつつも、急いで探さなくてはならないと痛烈に感じた。私は無意識に言葉を発していた。「実は・・・」このとき、お話し頂いた先生のご希望に極めて近い病院が頭に浮かんでいた。そして、その病院の詳細を説明し始めた。

次へ続く

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