ドクター転職ショートストーリー

正直に話してみよう(上)

2011年6月15日 コンサルタントT

先の震災が起こる前のある日、K先生とは東海道線の某駅前のファミリ-レストランでお会いした。年代は私と同じ30代なのだが、不思議な威圧感があった。威圧感と言っても態度が悪いとか、顔が怖いと言った類の話ではない。実際の身長よりも大きく見える印象だ。何かスポーツをされているのか聞いてみると、サーフィンをやっているとの事。ライフセーバーの様な体格はそのためだろう。挨拶を済ませ先ず、転職を考えた理由から尋ねてみた。専門は消化器外科だが、内科への転科を考えているとの事。今の病院へは内視鏡の症例が多いからと、知り合いのDrに紹介してもらい入職したそうだ。しかし、入職後すぐに院長と知り合いのDrが退職してしまい、某大学の医局員ばかりが症例を積んでいると愚痴をこぼしておられた。オンコール等の急な呼び出しにもK先生ばかりが呼ばれている状況らしく、地域の基幹病院であるため緊急オペが入ることもしばしばで、日付が変わる前に帰れない事も多いとの事であった。K先生は、「家内と子供を連れて引っ越してきましたがこんなにも入職前とのギャップがあるとは思いませんでした」と苦笑していた。その顔が今も印象に残っている。そんな中でも幸いな事は奥様が元医療従事者で過酷な勤務体系にも一定の理解を示している事であった。しかし理解はあるものの、お子様の事では悩んでいる事もあるそうだ。奥様の本音は子供の教育の事を考え、都市部に住みたいと考えているとの事だった。K先生も奥様も関東出身なので東京・千葉・埼玉が希望。他社にも登録しているとも聞いたので、私は「負けない様にいい求人を提案しますね」と告げてその日は別れた。

会社に戻ってK先生の希望条件を整理してみた。
●内視鏡の症例が積みたいので指導医がいる病院。
●当直やオンコールは構わないが自分にばかり回って来るのは困る。
●先輩の頼みで別に非常勤の勤務があるので週4日勤務が希望。
●年俸に関しては極端に安くなければ構わない。
この4つを満たす医療機関を早速あたってみた。正直なところ病院探しではあまり苦労はしなかった。消化器外科の医師で内科系の事も学んでいきたい。多くの勤務医が抱くごく普通の条件。今の過酷な勤務条件を抜けたいという希望があるだけである。何件かの医療機関に足を運び、先生の要望に合った所を探した。内視鏡の技術習得のための症例も積むことが出来るA病院での面接を提案し、承諾を得た。後は実際に面接して院内の雰囲気や院長と話しをしてもらってから入職について判断して頂こうと考えていた。

面接当日、K先生には遠方から車でお越し頂いた。K先生は苺をお土産で持ってきてくれた。患者さんからの頂き物だそうだ。患者さんから慕われているK先生が頭に浮かんだ。面接自体は問題無く終了し、詳細の詰めは残るがK先生から入職の返事が来る事を期待していた。面接が終わった後もK先生とは色々とやりとりをしていた。内視鏡の技術は身につけたいが、外科医としてメスを握らなくなる事に対して悩んでもいた。そんなK先生に対して差し出がましいかも知れないが、色々と自分なりの考えを伝えていた。A病院側との詰めに関しても順調に進んでいた。そんなある日、私の元に先生から意外な電話が入った。

次へ続く

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